フィリピンの国民的英雄であるホセ・リサール(José Rizal)は、19世紀後半のスペイン植民地時代に活躍した作家・思想家・改革運動家です。代表作『ノリ・メ・タンゲレ』や『エル・フィリブステリスモ』を通じて植民地体制の矛盾を鋭く告発し、フィリピン社会の変革を訴え続けました。そんなリサールが、進歩・教育・改革を阻む「敵」あるいは「障害」とみなしたものは、主に以下の4つです。
1. スペイン植民地政府
リサールは、スペイン植民地政府の抑圧的かつ差別的な政策を厳しく批判しました。当時の統治体制はフィリピン人の権利や機会を制限し、教育や経済活動における平等なチャンスを奪っていました。こうした構造的な抑圧こそが、社会全体の進歩を妨げる最大の要因だとリサールは考えていました。
2. 修道士(フライレス)の勢力
もう一つの大きな障害とされたのが、フィリピン国内で絶大な権力を握っていたカトリック修道会の修道士たち(フライレス)です。彼らは政治・教育・経済にまで影響力を及ぼし、異論や批判の声を弾圧することで支配を維持していました。リサールはこの宗教権威の濫用こそが啓蒙と改革の最大の邪魔になっているとみなし、著作の中でも痛烈に糾弾しました。
3. 植民地政府に協力する裕福なフィリピン人エリート
リサールの批判は外部の勢力だけにとどまりません。スペインの支配者側につき、既存の体制から利益を享受しようとする裕福で教育水準の高いフィリピン人たちもまた、改革の敵として非難されました。彼らは自国の人々の向上のために闘うのではなく、特権的な立場に甘んじたのです。このような内部の協力者がいる限り、真の変革は実現できないとリサールは警鐘を鳴らしました。
4. フィリピン人自身の分裂と国民意識の欠如
最後にリサールが指摘したのは、フィリピン人同士の不団結と国民意識の欠如という内面的な課題です。人々がバラバラでは、いかに正当な要求を掲げても大きな力にはなりません。リサールは、フィリピンが直面する困難を乗り越えるためには団結と連帯の精神が不可欠であることを繰り返し強調し、それが後に独立運動の原動力となっていきました。
このようにリサールにとって「敵」とは、単なる特定の人物ではなく、抑圧的な制度・権威・利己的な協力・そして国民自身の分裂といった多層的な障害でした。彼の思想は、フィリピンが一つの国家としてのアイデンティティを確立していく上で、重要な礎となったのです。