殷の時代、未来予測は「物体に文字を書くこと」ではなかった
殷(商)の時代において、未来を予測するために単に物体へ文字を書き込むという方法が用いられたわけではありません。この時代に実際に行われていたのは、「甲骨占い(こうこつぼくせん)」と呼ばれる独特な占術です。
甲骨占いとはどのようなものだったのか
甲骨占いでは、主にカメの腹甲(亀甲)や牛などの動物の肩胛骨が使用されました。占いはおおむね次のような手順で進められます。
- 準備:骨や甲羅の裏側に穴を掘り、表面が薄くなるよう削って加工します。
- 加熱:加熱した道具を当てるなどして、骨の表面に熱を加えます。
- ひび割れの発生:熱によって表面に「卜」という字形に似たひび割れが生じます。
- 解釈:「貞人(ていじん)」と呼ばれる占い師が、ひび割れの形や向きを読み取り、神意を判断しました。
文字は記録のために刻まれた
ここで重要なのは、甲骨に刻まれた文字(甲骨文字)そのものが未来を予測する道具だったのではなく、占いの内容や結果を記録するために刻まれたという点です。王や貴族たちは、戦争・農作物の収穫・天候・出産・祭祀などに関する問いを甲骨に刻み、後日その結果が当たったかどうかも追記して残しました。
これらの記録は「卜辞(ぼくじ)」と呼ばれ、現存する中国最古の体系的な文字資料として、殷王朝の歴史や社会構造を知るうえで貴重な手がかりとなっています。
まとめ
殷の時代の未来予測は、物体に文字を書くことによって行われたのではなく、亀甲や獣骨を加熱し、生じたひび割れを解釈する「甲骨占い」によるものでした。刻まれた文字はあくまで占いの記録であり、それが後世に「甲骨文字」として伝えられる漢字の起源となったのです。