そもそも「全米女性参政権協会」という団体名は誤り
この疑問には、まず重要な訂正が必要です。「National American Womans Suffrage Association」という名称の団体は、実際には存在しません。英語の綴りとしても不正確であり、歴史上そういう名前の組織は現れていません。
実在したのは、National American Woman Suffrage Association(全米女性参政権協会、通称NAWSA)です。1890年、スーザン・B・アンソニーやエリザベス・キャディ・スタントンらが率いる全国女性参政権協会(NWSA)と、ルーシー・ストーン率いるアメリカ女性参政権協会(AWSA)が統合されて誕生しました。そして1920年、憲法第19修正が批准されて女性の投票権が認められると、NAWSAはその役割を終え、後の全米女性投票者連盟(LWV)へと受け継がれていきました。
NAWSAはイギリスの女性参政権運動を支持していた
では、「NAWSAの指導者たちはイギリスの女性参政権を嫌っていたのか?」という問いへの答えは、否です。むしろ逆で、NAWSAはイギリスにおける女性社会政治同盟(WSPU)による女性参政権獲得の取り組みを支持する立場を取っていました。
WSPUは1903年、エメリン・パンクハーストによってマンチェスターで設立された組織です。「行動は言葉よりも雄弁である(Deeds, not words)」をスローガンに掲げ、デモや抗議活動といった大胆な手法でイギリスの世論を大きく動かしました。大西洋の向こう側にいたアメリカの運動家たちにとっても、WSPUの闘いは大きな関心と刺激の対象となりました。
まとめ
「NAWSAの指導者がイギリスの女性参政権運動を嫌った」という見方は、誤った前提に基づくものです。正しくは、NAWSAという実在の組織が、イギリスのWSPUによる参政権獲得運動を支持していた、というのが史実に近い理解といえます。なお、その後アメリカ国内では、WSPU流の急進的な戦術を取り入れるべきかどうかをめぐって意見が分かれ、アリス・ポールらがNAWSAを離脱して独自の組織を結成するという展開も起こっています。