インカ帝国を征服したスペインの征服者(コンキスタドール)、フランシスコ・ピサロ(1475年頃~1541年)には、生涯にわたっていくつかのニックネームが存在していました。その中でも特に知られているのが「エル・ロト(El Roto)」と「エル・マルケス(El Marqués)」という二つの呼び名です。
「エル・ロト(El Roto)」――傷にまつわるあだ名
「エル・ロト」は日本語で「傷物」「裂けた男」などを意味するあだ名です。このニックネームは、ペルー征服の過程でピサロが受けた戦傷にちなんで付けられたとされています。過酷な遠征や戦闘を幾度も経験した彼の体には多くの傷が残り、それが周囲からこう呼ばれる一因となりました。苦難に満ちた征服者の人生を象徴するような、生々しいあだ名といえるでしょう。
「エル・マルケス(El Marqués)」――王冠から与えられた称号
一方、「エル・マルケス」は「侯爵」を意味する尊称です。これはスペイン王室が、インカ帝国征服という偉業を称えてピサロに授けた正式な貴族の称号に由来します。彼はカルロス1世(神聖ローマ皇帝カール5世)から「アタビージョ侯爵(Marqués de los Atabillos)」の位を与えられ、一介の貧しい出身の兵士からスペイン社会における高い地位へと昇りつめました。
二つのニックネームが映す征服者の姿
戦いで負った傷を表す「エル・ロト」と、栄光の証である「エル・マルケス」。この対照的な二つの呼び名は、武人としての過酷な半生と、征服によって手に入れた富と名誉という、フランシスコ・ピサロの人生の両面を如実に物語っています。