「大型爆撃機B-52がエンパイア・ステート・ビルに激突したのに、ビルは倒壊しなかった」という主張が、一部の動画やSNS上で9.11陰謀論の根拠として引用されることがあります。しかし、この主張には重大な誤りがあります。本記事では、この説の問題点と、実際に起きた歴史的事実について解説します。
B-52がエンパイア・ステート・ビルに衝突した記録は存在しない
まず大前提として、B-52ストラトフォートレスがエンパイア・ステート・ビルに衝突したという出来事は、歴史上一度も発生していません。航空事故の公式記録、ニュースアーカイブ、ニューヨーク市の公文書のいずれにも、そのような事故を裏付ける資料は存在せず、「ルース・チェンジ(Loose Change)」と呼ばれる動画も、これを支持する信頼できるデータを一切提示していません。
そもそもB-52は1950年代に初飛行した戦略爆撃機であり、1945年に起きたエンパイア・ステート・ビルへの航空機衝突事故の時点では、まだ開発されていない機体です。年代的に見ても、この主張が成り立たないことは明らかです。
実際に起きたのは1945年のB-25爆撃機の墜落事故
エンパイア・ステート・ビルに航空機が激突したことがあるのは事実ですが、それは1945年7月28日のことでした。視界の悪い霧の中を飛行していたB-25ミッチェル双発中型爆撃機が、ビルの79階付近に激突したのです。
この事故では、搭乗員3名とビル内の作業員ら11名、合わせて14名が亡くなりました。衝突による火災が発生しましたが、ビルは倒壊することなく、火災は当日中に鎮火されました。エレベーター操作員ベティ・ルー・オリバーさんが約75階分の落下に耐えて生還した逸話は、今も語り継がれています。
なぜ「B-52」と混同されるのか
陰謀論的な主張では、この事故の機体がB-25ではなく「B-52」として紹介されるケースが見られます。これは単純な混同か、あるいはインパクトを強めるための意図的な誇張である可能性が高いでしょう。
「倒壊しなかった」比較論が成立しない理由
「飛行機が激突してもビルは倒壊しないはずだ」という議論自体、以下の点で成立しません。
- 機体の規模がまったく違う: B-25は最大離陸重量約15トンの中型爆撃機ですが、2001年9月11日にワールドトレードセンターに激突したのは、最大離陸重量約180トンのボーイング767旅客機です。
- 速度と燃料量が異なる: 霧の中を低速で飛行していたB-25に対し、767は高速で飛来し、大量の航空燃料を搭載していました。燃料による大火災が鋼構造の強度を低下させたことが、タワー崩壊の主要因とされています。
- 建物の構造設計が違う: エンパイア・ステート・ビルは分厚い石材と鉄骨による冗長性の高い構造ですが、WTCは外周に細い鋼柱を密に配置したチューブ構造で、設計思想が根本的に異なります。
まとめ
「B-52がエンパイア・ステート・ビルに激突しても倒壊しなかった」という主張は、B-52の衝突事故が歴史上存在しない以上、完全な誤りです。実際の事故は1945年の小型のB-25によるものであり、機体規模・速度・燃料量・建物構造のすべてが9.11の状況とは大きく異なります。信頼できる一次資料に基づかない動画の主張を、そのまま事実として受け入れることは避けるべきでしょう。