1790年代は、フランス革命がヨーロッパを揺るがし、アメリカでは建国間もない共和制国家が歩み始めた激動の10年でした。こうした時代背景は、当時の人々の会話や文書に頻繁に登場する単語やフレーズにも色濃く反映されています。ここでは、18世紀最後の10年間によく使われた英語の言葉を、「単語」と「フレーズ」に分けてご紹介します。
1790年代に頻出した単語
以下の単語は、政治論争、文学、社交の場で特に多く見られました。
- Aesthetics(美学) — 啓蒙思想の影響で「美」についての哲学的議論が盛んになり、学術用語として定着しつつありました。
- Democratical(民主主義の) — フランス革命の影響で政治論争の中心となった言葉。当時は「危険な思想」を指すニュアンスで使われることもありました。
- Enthusiasm(熱狂) — 宗教的・政治的な熱狂を警戒する声が多い一方で、頻繁に使われた語です。
- Federalist(連邦主義者) — アメリカ合衆国憲法をめぐる論争の中で生まれた政治用語。
- Fraternization(親交・友好) — 革命期の「友愛」の精神を反映した言葉。
- Gallant(勇壮な、紳士的) — 騎士道的な振る舞いを表す社交界の言葉。
- Inimical(敵対的な) — 政治パンフレットでよく使われた格式高い語。
- Malign(悪意ある、中傷する) — 論争の絶えなかった時代ならではの言葉です。
- Philanthropy(博愛) — 人類への愛を重んじる啓蒙思想の精神を体現した語。
- Quixotic(空想的な) — セルバンテスの『ドン・キホーテ』に由来し、非現実的な理想主義を皮肉る際に使われました。
- Sublime(崇高) — ロマン主義黎明期の美学において中心的な概念。
- Terpsichorean(舞踏の) — ギリシャ神話の舞踊の女神テルプシコラにちなんだ優雅な語。
- Tyrannical(専制的な) — 王政批判の文脈で盛んに使われた政治用語。
- Verisimilitude(真実味) — 文学や演劇における写実性の議論で重要な語。
- Zealous(熱心な) — 信念に燃える人々を形容するのに好んで用いられました。
1790年代に口にされたフレーズ
格言、聖書、古典、そして革命のスローガンまで、幅広い源流を持つ表現が日常に浸透していました。
- Age of Reason(理性の時代) — 啓蒙時代そのものを指す呼び名。トマス・ペインの著作のタイトルとしても有名です。
- Blue laws(ブルー法) — 日曜日の娯楽や商売を禁じた厳格な清教徒的な法规。
- By hook or by crook(手段を選ばず、なんとかして) — 中世から伝わる慣用句で、当時も日常会話で健在でした。
- Common sense(分別・常識) — 1776年のトマス・ペインのパンフレット『コモン・センス』以来、政治のキーワードとなりました。
- Cut to the quick(心の芯まで傷つける) — 深く心を痛めることを表す表現。
- Fair play(公正な扱い) — スポーツマンシップにとどまらず、政治倫理の文脈でも使われました。
- For fear that(~を恐れて) — 当時の書簡に頻出する接続表現。
- Gentlemen's agreement(紳士協定) — 書面によらない紳士間の取り決め。
- Go the whole hog(徹底的にやる) — 中途半端ではなく最後までやり抜くこと。
- Hail Columbia(ハイル・コロンビア) — 1798年に作られたアメリカの愛国歌。
- In full force(全力で・完全に効力を発揮して) — 法律や軍隊の動員などを表す定型句。
- Know thyself(汝自身を知れ) — デルフォイの神託に由来する古典的名言。
- Life, liberty, and the pursuit of happiness(生命・自由・幸福の追求) — アメリカ独立宣言の有名な一節。
- Mind your own business(余計なお世話だ) — この時代からすでに使われていた皮肉っぽい一言。
- Neither fish nor fowl(魚でも鳥でもない) — どっちつかずの状態を言い表す諺。
- Off with his head(首をはねよ) — 処刑の号令として古くからある表現。フランス革命期には恐怖政治を連想させる言葉となりました。
- Public good(公共の利益) — 共和主義の核心をなす概念。
- Ship of state(国家という船) — 古代ギリシャ以来受け継がれてきた国家の比喩。
- The better angels of our nature(我々の本性の善き天使たち) — リンカーンの演説で知られる前に、この時代の文章にも見られる表現。
- The best of all possible worlds(あらゆる可能な世界のうち最善の世界) — ライプニッツの哲学用語で、ヴォルテールの『カンディード』によって風刺されました。
- The powers that be(既成権力) — 聖書の一節に由来する、権威を指す表現。
- Timeo Danaos et dona ferentes(贈り物を持つギリシャ人を恐れよ) — ウェルギリウス『アエネーイス』のラテン語名句。教養人の合言葉でした。
- United we stand, divided we fall(団結せば立つ、分裂せば滅ぶ) — アメリカ独立期の標語。
- Vox populi, vox Dei(民の声は神の声) — 中世からのラテン語格言が、革命の時代に新たな意味を帯びました。
まとめ
1790年代の言葉を見てみると、啓蒙思想の理性への信頼、革命をめぐる政治的緊張、そして古典教養の重みが同居していることがわかります。ラテン語の格言が日常会話に溶け込み、新しい政治用語が次々と生まれたこの時代は、近代英語の言葉遣いが形づくられた重要な転換点だったのです。