アメリカドル以前の通貨事情
アメリカ合衆国ドルが公式通貨として採用される前、現在のアメリカ合衆国となる地域では、実にさまざまなものが「お金」として使われていました。先住民の伝統的な交換手段からヨーロッパ植民者が持ち込んだ銀貨、そして独立戦争期の紙幣まで、その多様さには驚かされます。ここでは、ドル導入以前に米国の歴史で実際に使われた6種類の通貨をご紹介します。
1. バーチバーク(樺皮)
先住民による樺皮の通貨は、ペノブスコット族、ミクマク族、パサマクォディ族、マリシート族などを含む部族連合「ワバナキ連邦」によって最も広く使用されました。樺皮はワンパムの一種として機能し、通貨としての価値だけでなく、条約や契約、その他重要な出来事を記録する媒体としても活用されていました。
2. ガラス片
ガラス製のビーズやガラス片が通貨として普及したのは、天然痘の流行によって現在のコネチカット州にあたる地域の先住民人口の約95%が失われたことがきっかけでした。オランダ人はこの弱体化した状況につけ込み、25,000ファゾム(約45キロメートル、28マイル)分のワンパムという価格で土地購入の交渉を行いました。ところが、通貨への需要が急増した結果、今度はガラスビーズやガラス片が不足するという事態に陥ったのです。
3. ビーバーの毛皮
ヨーロッパからの植民者が北米に到着すると、彼らはすぐにビーバーの毛皮がヨーロッパでも極東でも非常に高い価値を持つことに気づきました。この価値ゆえに、ビーバーの毛皮は先住民との物々交換に使える貴重な「貨幣」となり、特にハドソン湾産のビーバーの毛皮は最高級の通貨とみなされました。
4. ワンパム
ワンパムは、北米の先住民とヨーロッパ植民者の双方によって使用された通貨です。ホンビノスガイ(クアホグ)の貝殻から作られた白と紫のビーズで構成され、物品の購入や債務・税金の支払いに幅広く利用されました。
5. スペインレアル
スペインレアルは、18世紀から19世紀にかけてアメリカ大陸で広く流通した銀貨です。特に8レアル銀貨は一般的で、「スペインドル」や「ペソ」と呼ばれることも多くありました。
6. 大陸紙幣(コンチネンタル・カレンシー)
大陸紙幣は、アメリカ独立戦争中に大陸会議が発行した紙幣です。戦争の費用の支払いに充てられましたが、ハイパーインフレーションによって急速に価値を失い、ほぼ無価値となってしまいました。当時は「大陸紙幣一枚の価値もない(Not worth a Continental)」という言葉が広く使われるほどでした。
まとめ
樺皮や貝殻のビーズから銀貨、紙幣まで、米国史の初期には実に多彩な通貨が存在していました。こうした混乱した通貨事情を背景に、1792年の貨幣法(Coinage Act)によって統一通貨であるアメリカ合衆国ドルが誕生することとなります。通貨の変遷は、それ自体がアメリカ建国の歴史を映し出す鏡だと言えるでしょう。