相互確証破壊(MAD)の定義
相互確証破壊(Mutual Assured Destruction、略称:MAD)は、軍事戦略および国家安全保障政策における重要なドクトリン(教義)の一つです。この考え方では、対立する2カ国以上が核兵器を全面的に使用した場合、双方が壊滅的な被害を受けることになると想定します。その根底にあるのは「抑止理論」であり、相互に確実な破滅をもたらすという脅威こそが、いずれの側も核攻撃の先制開始を思いとどまらせる、という発想に基づいています。
概念の誕生:バーナード・ブロディーと『絶対兵器』
相互確証破壊という概念を最初に明確に提唱したのは、米国シンクタンクRAND(ランド)研究所の研究者にして戦略家であるバーナード・ブロディー(Bernard Brodie)でした。1946年に出版された著書『絶対兵器(The Absolute Weapon)』の中で、彼は次のように主張しました。
核戦争を防ぐ唯一の方法は、いかなる侵略者であっても核攻撃を仕掛ければ必ず自らも破滅すると確信させることである。そしてそれを実現できるのは、確実な第二次打撃能力——すなわち、相手の先制核攻撃を受けた後でも報復として核攻撃を行える能力——を維持することだけだ、というのです。
各国の核政策における位置づけ
相互確証破壊のドクトリンは1950年代以降、アメリカの核政策の中核を担う原則となってきました。また、ロシア(旧ソ連)、中国、イギリスなど、他の核保有国も同様の考え方を採用してきました。冷戦期には米ソ両陣営が大量の核兵器を保持し合うことで均衡が保たれ、「恐怖の平衡」と呼ばれる安定状態が形成されました。
批判者の主張
一方で、このドクトリンに対する批判も根強く存在します。批判者たちは次のような論点を挙げています。
- 核戦争が実際に双方の完全な破滅につながるとは限らず、ドクトリンの前提自体が誤っている可能性がある。
- 仮に破滅が確実だとしても、敵を抑止するために大量殺戮を意図的に計画することは道徳的に許されない。
- 誤認や事故、技術的故障などによって、意図せず核戦争が勃発するリスクを常に抱えている。
支持者の主張
これに対して支持者たちは、相互確証破壊が70年以上にわたり核戦争を防いできた実績を強調します。相互破滅の脅威がある限り、いかなる国家も核攻撃を仕掛けることはあまりに大きなリスクを伴うため、結果として平和が維持されてきた——これが彼らの中心的な主張です。
まとめ:現代においても有効な概念か
相互確証破壊は、議論を呼びやすく、しばしば誤解される概念ではありますが、21世紀の今日においても核戦略や国家安全保障政策の重要な柱であり続けています。核拡散や新興技術の登場など国際情勢が変化する中で、この古典的な抑止理論が今後どう進化していくのか、引き続き注目が集まるところです。