トロイア戦争の発端となった絶世の美女ヘレネの夫であり、スパルタの王でもあったメネラウス。しかし、10年に及ぶ戦争が終わっても、彼はすぐに故国へ凱旋できなかったと伝えられています。その理由は、帰還の途上で相次いだ思わぬ苦難にありました。
エジプト・ファロス島での足止め
ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』によれば、メネラウスは戦後の帰路、エジプト沖に浮かぶファロス島で不順な風に阻まれ、長期間そこに立ち往生することになりました。乗組員たちの食料も尽きかけましたが、変身する海の老人プロテウスを捕らえて助言を得たことで、メネラウスはようやく帰国への道を切り開いたのです。
『テレゴニア』が伝えるもう一つの物語
一方、キュレネのエウガモンによる叙事詩『テレゴニア』には、少し異なる伝承が残されています。それによれば、メネラウスはキプロス島でヘレネと再会し、二人はそこで和解しました。戦争の混乱の中で離散していた夫婦が、再び結ばれたという筋書きです。
地中海を巡る旅とアマトゥスへの定住
和解後、メネラウスとヘレネは共に地中海各地を巡り、いくつもの植民市を建設したと伝えられています。そして最終的に、二人はキプロスの都市アマトゥスに落ち着いたといわれています。
このようにメネラウスの帰還は決して平坦なものではなく、悪風との格闘や長い遍歴に満ちたものでした。トロイア戦争の英雄たちの多くが過酷な帰還の試練を背負わされたように、メネラウスもまた容易ならぬ「ノストス(帰還)」を強いられたのです。