1950年11月7日、サルダール・パテルはジャワハルラール・ネフル首相に対し、チベット情勢と中国の脅威について詳細な警告を発した書簡を送った。この書簡は、インドの安全保障政策における転換点となるべき極めて重要な文書である。
チベットをめぐる中国の欺瞞
パテルは、外務省と駐北京大使を通じた中国政府との文書のやり取りを精査した結果、「中国政府は平和的意図を説いて我々を欺いた」と断じている。表向きはチベット問題の平和的解決を装いながら、裏ではチベット侵攻の全計画を準備していたと指摘する。ダライ・ラマを救えない現状、チベット人がインドを信頼していたことへの無力感を吐露している。
共産主義の仮面を被った帝国主義
「共産主義は帝国主義からの盾ではない。共産主義者は帝国主義者と同じく、善にも悪にもなり得る」——パテルは歴史の教訓を引き合いに出し、中国の拡張主義がイデオロギーという外衣をまとい、「西側の帝国主義より十倍危険」であると警告する。中国はヒマラヤ山脈のみならず、アッサムの重要地域、ビルマにも触手を伸ばしている。
北東国境の脆弱性と新たな二正面作戦の必要性
これまでインドはパキスタンという「自国より弱い相手」を想定して防衛計画を立ててきた。しかし今や、「明確な目標を持ち、友好の感情を持たない共産主義中国」が北と北東に鎮座し、インドは「数世紀ぶりに二方向の国境を同時に防衛せねばならない」事態に直面している。
国境地帯の構造的弱点
- ネパール、ブータン、シッキム、ダージリン、アッサムの部族地帯は交通・通信の面から極めて脆弱
- 明確な防衛ラインがなく、浸透が容易
- 住民の対インド忠誠心が薄く、モンゴル系の影響が強い
- ナガ族などアッサムの山岳部族への働きかけが遅れ、欧州宣教師の影響もインドに不利
- ネパールの寡頭制、シッキムの不満、ブータンのチベットとの親密さ——いずれも中国・ソ連に利用される「弱い環」
国内治安への波及:共産党のルート確保
これまでビルマやパキスタン国境、長い海岸線を迂回せねばならなかったインド共産党の外部連絡・武器調達が、中国国境の開放により「容易かつ日常的」になる。テランガーナ・ワランガルの共産党対策に加え、北東国境沿いでの共産主義者の挑戦にも直面せねばならず、中国からの武器供給も懸念される。
パテルが提示した11の緊急課題
パテルは以下の項目について即座の検討と決断を求めた。
- インド国境からの脅威および中国による内部治安への挑戦に関する情報・軍事的評価
- 部隊配置の見直しと再配備——将来紛争地となりうる地域・ルートの確保
- 治安部隊の戦力評価と軍縮計画の再考
- 防衛需品の恒常的確保——火砲、弾薬、装甲車両への特別な配慮
- 中国の国連加盟支持の見直し——チベットでの非友好的態度、朝鮮戦争への関与を踏まえ
- 北・北東国境の政治・行政的強化——ネパール、ブータン、シッキム、ダージリン、アッサムの部族地帯を含む
- 国境地帯および隣接地域(UP、ビハール、ベンガル、アッサム)の内部治安対策
- 道路、鉄道、航空、無線通信の整備——前線部隊への補給線確保
- 国境前哨基地の警備と諜報
- ラサ駐在ミッション、ヤンツェ・ヤトゥン貿易拠点、チベット駐留防衛部隊の将来
- マクマホンラインに関する方針
ビルマとの関係深化という戦略的選択肢
パテルは「中国が我々に圧力をかける前にビルマを圧迫するだろう」と予測し、ビルマとの関係を強化して対中抑止の拠点とするべきか検討すべきだと提案している。中ビルマ国境が未画定であることを中国が利用し、ビルマを通じてインドの注意を逸らす可能性を指摘する。
結語:迅速かつ包括的な決断を
「わずかな目的の誤り、実行におけるわずかな緩みが、我々を弱体化させ、目前の脅威をさらに増大させる」——パテルは謙虚さも躊躇も許されない局面だと強調し、早急な会合を開き、即応すべき措置と中長期的課題を包括的に決定すべきだと訴えて書簡を締めくくっている。
(注:本稿は1950年11月7日付サルダール・パテル書簡の要訳・構成である。原文はネフル文書館蔵。)