歴史物語

古代エジプトの国民的飲料「ビール」のすべて ― パンと同じ生地から生まれた黄金色の酒

古代エジプトの国民的飲料、ビール

古代エジプトの国民的飲料「ビール」のすべて ― パンと同じ生地から生まれた黄金色の酒

古代エジプトにおいて、最も裕福な階層に好まれたのはワインでしたが、国民的な飲み物として広く親しまれていたのはビールでした。興味深いことに、このビールはパンと同じ基本の生地から作られていたのです。

仕上がったビールは専用の容器、つまり特別な壺に保管されました。この壺はやがて、ビールそのものを表すヒエログリフ(象形文字)の記号となりました。

壁画が伝える製造工程

エジプトにおけるビール製造について詳しく知ることができるのは壁画です。当時の人々が黄金色の飲料を完成させるまでの主要な工程が、壁面に極めて鮮明かつ詳細に描かれています。

農民や職人たちに深く愛されたエジプトのビールですが、富裕層にも決して敬遠されることはありませんでした。主原料は大麦でしたが、新王国時代のファラオアメンホテプ2世の頃以降は、スペルト小麦へと置き換えられるようになります。その理由は、大麦製のビールは濁りが強く濾過という追加の作業が必要だったのに対し、スペルト小麦で造ったビールは滓(おり)がほとんどなく、余計な手間をかけずとも最初から澄んだ液体が得られたためです。

酵母の秘密はデーツワインにあり

酵母(イースト)には、一般的にデーツ(ナツメヤシ)ワインと呼ばれるアルコール含有物が用いられました。これは乾燥させたデーツを足で踏み潰すだけで簡単に作れる、身近な存在だったのです。

こうして精製された混合物は素焼きの壺に移され、発酵を待ちました。この手間のかかる製造工程を経て完成したビールはアルコール度数が非常に高く、その味わいは現代の白ワインに近いものだったと考えられています。