アーサー・ミラーの戯曲『るつぼ(The Crucible)』に登場する「ウォルコットが豚を買う」という出来事と、「マーサ・コーリーが魔術の容疑で告発される」という出来事。一見すると別々の事件に見えますが、実は劇中で直接つながっています。
ウォルコットが豚を買ったこと
第3幕で、ジャイルズ・コーリーが法廷で語るところによれば、農夫のウォルコットはマーサ・コーリーから豚を購入しました。ところが、その豚はまもなく死んでしまうのです。
マーサ・コーリーへの告発
豚を失ったウォルコットは、マーサ・コーリーが「悪魔の力」で豚に呪いをかけたに違いないと主張し、彼女を魔術(ウィッチクラフト)の容疑で訴えました。この告発によって、マーサ・コーリーは逮捕され、魔女裁判にかけられることになります。
2つの出来事をつなぐもの
つまり、この2つの出来事は、同じ作品の中で起きているというだけでなく、明確な因果関係で結ばれています。「豚を買う」というごく日常的な商取引が、豚の死をきっかけに「魔術の告発」という悲劇へと発展したのです。
また、マーサ・コーリーは敬虔な教会員として知られていた一方で、読書好きという点で村の人々からやや距離のある存在でもありました。こうした「少し変わっている」という周囲の印象も、告発が受け入れられやすい土壌となったと考えられます。
このエピソードが示すもの
ミラーはこのエピソードを通じて、1692年のセイラム魔女裁判の狂気が、いかに根拠のない疑心から生まれたかを描き出しています。豚が死んだという偶然の出来事さえも「魔術の証拠」として扱われてしまう社会――それこそが、『るつぼ』が痛烈に批判する集団ヒステリーの正体なのです。