「祖父条項(グランドファーザー・クローズ、Grandfather Clause)」とは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、アメリカ合衆国の一部の州憲法に盛り込まれた規定です。この条項は、「一定の日付以前に有権者登録をしていた祖先を持つ者、およびその子孫」を、新たに設けられた投票資格要件の適用対象から除外するものでした。基準日としては、1870年に批准された憲法修正第15条の前後が用いられることが一般的でした。
祖父条項の仕組み
当時、南部諸州では黒人の投票権を事実上奪うため、識字テスト、人头税(ポールタックス)、理解度試験といった厳しい要件が次々と導入されていました。しかし、こうした要件は貧しい白人層にも不利に働きかねません。
そこで考案されたのが祖父条項です。「本人または直系の祖先が特定の日付以前に投票者として登録されていれば、新しい要件を満たさなくても投票できる」という例外を設けることで、白人はほぼ自動的に要件を免除され、一方で黒人だけが厳格な審査の対象となりました。
なぜ黒人だけが除外されたのか
鍵となるのは基準日の設定です。1860年代後半から1870年頃、すなわち奴隷制の時代には、黒人にはそもそも投票権がありませんでした。したがって、「基準日以前に有権者登録をしていた祖先」を持てるのは白人だけであり、黒人市民は例外なく新たな制限的要件の適用を受けることになったのです。
歴史的背景とその後
再建期(レコンストラクション)が終わりを迎えた1870年代以降、南部各州はジム・クロウ法体系のもとで黒人の政治的権利を体系的に制限していきました。有名な例としては、オクラホマ州が1910年に導入した祖父条項が挙げられますが、連邦最高裁判所は1915年のGuinn対合衆国事件(Guinn v. United States)において、この条項を憲法修正第15条に違反するものとして違憲と判断しました。
しかしながら、祖父条項の廃止後も識字テストやその他の差別的手法は長く残り、黒人からの投票権剥奪は、公民権運動の成果である1965年の投票権法(Voting Rights Act of 1965)の制定まで、実質的に続くこととなりました。