「アメリカ人はなぜ1950年代にサンベルトへ移住したのか」という問いには、まず前提の修正が必要です。実は、サンベルト(アメリカ南部から南西部の日照の多い地域)への移住が、統計的にも社会的にも明確に顕著になったのは1950年代ではなく1970年代です。ただし、この流れ自体は第二次世界大戦後、すなわち1950年代以前から少しずつ始まっていました。
「サンベルト」とはどのような地域か
サンベルトとは、フロリダ、テキサス、アリゾナ、ジョージア、両カロライナ州など、年間を通じて日差しが強く気候が温暖な地域を指す言葉です。この名称は、政治評論家ケヴィン・フィリップスが1969年の著書で用いたことが広く知られており、当時台頭しつつあった南部・西部の経済的・政治的な存在感を象徴するものとなりました。
本格的な移住ブームは1970年代に
第二次世界大戦後、カリフォルニアやテキサスなどへの人口流入は徐々に始まっていましたが、国勢調査のデータを見ても、北部の旧工業地帯(いわゆるラストベルト)から南部・西部への人口シフトが決定的に顕著になったのは1970年代です。この時期、多くの製造業が寒冷地の都市から温暖な地域へ拠点を移し、人口の流れもそれに続きました。
人々がサンベルトに向かった主な理由
1. 気候とエアコンの普及
温暖な気候は健康に良いとされ、特に引退後の生活の場として高い人気を集めました。また、家庭用エアコンの普及により、かつては夏の酷暑が大きな障壁だった地域でも快適に暮らせるようになったことが、移住を後押ししました。
2. 防衛・航空宇宙産業の発展
冷戦期における国防費の増大に伴い、航空機、ミサイル、電子機器などの防衛関連産業がカリフォルニア、テキサス、フロリダなどに集中しました。これにより大量の雇用が生まれ、労働者が家族ぐるみで移住する動きが加速しました。
3. 経済環境の魅力
サンベルトの各州は労働組合の影響が比較的弱く、「労働権法(right-to-work law)」を採用する州が多いうえ、税負担も軽かったため、企業誘致に成功して新規雇用を次々と生み出しました。土地や住宅の価格が北部の大都市より安かったことも大きな追い風でした。
4. リタイア世代の移住
戦後の経済成長で豊かになった退職者世代が、冬の寒さが厳しい北東部を離れ、フロリダやアリゾナといった温暖な州へ移り住む傾向を強めました。これらの地域では高齢者向けコミュニティが急速に発展しました。
まとめ
したがって、「1950年代にアメリカ人がサンベルトへ移住した」という表現は正確とは言えません。移住の芽は戦後まもなく見られたものの、社会現象として無視できない規模に達したのは1970年代であり、その後もこの流れは続き、アメリカの人口分布のみならず政治・経済の重心をも大きく塗り替える結果となりました。