第二次世界大戦中、アメリカの戦時生産局(War Production Board)が男性用スーツを「再設計」したというのは、正確には誤解です。実際に行われたのは、生地を節約するために衣料品の製造を制限する戦時節約令の発布でした。
その代表例が、1942年に発布された一般節約令「L-85」です。この規制により、スーツの製造にはさまざまな制限が課されました。具体的には、上着の丈の短縮、ラペル(襟)の幅の狭小化、ズボンの折り返し(カフス)の禁止、ベストやパッチポケットの廃止などが挙げられます。
これらの規制によって誕生したのが、いわゆる「ビクトリー・スーツ(Victory Suit)」と呼ばれるスタイルです。一見すると従来のスーツに似ていますが、使用される生地の量は大幅に削減されていました。これはファッションの革新ではなく、軍需に布地を回すという国家総力戦の一環としての資源配分の問題だったのです。
L-85規制の主な内容
- 上着の丈の短縮と生地使用量の制限
- ラペル幅の狭小化
- ズボンの折り返し(カフス)の禁止
- ダブルブレスト(両前)スタイルの制限
- ベストおよびパッチポケットの廃止
つまり、戦時生産局はスーツを意図的に「再設計」したわけではありません。資源節約のために課された規制が、結果としてスーツのスタイルを変えることになった、というのが実態です。