ロバート・A・タフト上院議員(オハイオ州選出、「ミスター・リパブリカン」と呼ばれた共和党保守派の重鎮)は、1949年の北大西洋条約(NATO)批准をめぐる議論において、最も有力な反対者の一人でした。彼が恐れていたのは、同盟そのものではなく、条約が米国にもたらす「自動的な戦争参加」の仕組みだったのです。
第5条がもたらす「自動参戦」への不安
彼の最大の懸念は、集団安全保障の中核となる第5条にありました。この規定では、ある加盟国への武力攻撃はすべての加盟国への攻撃とみなされ、米国はヨーロッパ諸国やその他の同盟国の防衛のために、自動的に動員されることになります。
具体的にタフト上院議員が問題視したのは、以下の点です。
- 発言権の欠如:「本当に攻撃が行われたのかどうか」を米国自身が判断する余地がなく、同盟国側の主張に従わざるを得なくなる。
- 意図しない紛争への巻き込み:米国の国益とは直接関係のない海外の争いに、国民の意思とは無関係に引きずり込まれる危険性。
- 憲法上の権限への侵害:宣戦布告の権限は議会が保持しているはずなのに、条約によって大統領が事実上の開戦決定権を握ってしまう恐れ。
ソ連との対立を深めることへの警戒
さらにタフトは、恒久的な軍事同盟の形成そのものがソ連との緊張を激化させ、世界を二つの敵対する陣営に分断し、結果として全面戦争のリスクを高めると考えていました。彼は「ヨーロッパの防衛に貢献することは可能だが、それは米国の戦争参加を事前に法的に拘束しない形で行われるべきだ」と繰り返し主張しました。
結局は批准されたが、問いは今も残る
北大西洋条約は1949年に上院の承認を得て批准されましたが、タフト上院議員の警告は後世にも繰り返し参照されてきました。「他国のために戦うかどうかを決めるのは、あくまで米国自身であるべきだ」という原則の問題は、現代における集団安全保障の在り方を考えるうえでも、依然として重要な論点であり続けています。