
犬こそ人間の最良の友とされるが、一匹の猫「サイモン」は、その称号に匹敵する存在であることを自ら証明してみせた。彼の死から数十年が経った今もなお、英国海軍はこの英雄猫を讃え続けている。
長江で101日間の包囲
サイモンは英国海軍フリゲート艦「HMSアメジスト号」のマスコットだった。中国内戦の終盤、同艦は毛沢東率いる人民解放軍によって長江(揚子江)上で包囲され、なんと101日間も身動きが取れなくなってしまったのだ。
当時アメジスト号は、上海から南京へ向かう途中だった。現地の英国大使館員の避難計画を支援するための航行中に毛沢東軍の砲撃を受け、損傷のため座礁してしまう。イギリス側が懸命に抗議と交渉を重ねたにもかかわらず、共産党側は艦の修理も、乗員の退避も、食料の補給も一切認めなかった。
重傷を負いながらも生き延びた
逃げ道をすべて断たれた乗員たちは、次第に飢えと疲労に苦しみ始めた。しかも時折、砲撃が艦を直撃することもあった。サイモン自身も、中国軍の砲弾による破片で重傷を負っていた。それでも彼は、傷ついた体を引きずって船内の医务室までたどり着いたのである。医師たちは破片を4つ摘出したが、その容態は極めて深刻で、誰もが彼は夜を越せないだろうと覚悟していた。
しかし、真の猫らしく、サイモンは九死に一生を得て奇跡的に回復した。そして受けた看病に恩返しするかのように、船内に蔓延していた何百匹ものネズミの駆除に立ち上がったのだ。彼は艦の食料備蓄を守り抜き、戦死者22名を除くほぼすべての乗員の命を間接的に救ったと言われている。
士気を支えた小さな英雄
だが、この小さな猫の最大の功績は、包囲され追い詰められた乗員たちの士気を保ち続けたことだろう。艦長から最下級の水兵まで、誰もが彼をお守りのように思い、心の支えとしたのだ。
脱出と永遠の栄誉
1949年7月30日の夜、アメジスト号は嵐に紛れて包囲網を突破し、101日間に及ぶ籠城を終えた。この功績により、サイモンは動物版ヴィクトリア十字章とも称される「ディキン勲章」を授与されている。猫として唯一の受章である。しかし帰国後まもなく、検疫中に感染症を患い、同年11月にこの世を去った。彼は軍葬に準じた栄誉をもって埋葬され、その勇敢な物語は今なお英国海軍の歴史に刻まれ続けている。