16世紀のイングランド、チューダー朝時代。現代のように蛇口をひねれば水が出る時代ではありませんでした。では、王侯貴族も庶民も、どのように毎日の生活に必要な水を確保していたのでしょうか?
王宮における水の供給
テムズ川はロンドンおよび各王宮にとって主要な水源でした。しかしながら、テムズ川の水はしばしば汚染されており、飲用には適していませんでした。そこでチューダー朝の歴代君主たちは、市外の湧き水や井戸から清潔な水を運び込むための導水管や水路を建設しました。
これらの導水管は粘土や鉛で内張りされた溝であり、重力を利用して宮殿まで水を送っていました。また、宮殿の敷地内や庭園には専用の井戸も設けられ、飲料水や洗浄用の水として利用されていました。汲み上げられた水は貯水槽や樽に保管され、使用人によって王室の各居室へと運ばれていたのです。
一般家庭の水事情
ほとんどのチューダー様式の家屋には上水道が引かれていなかったため、人々は自力で水を汲む必要がありました。川や小川、井戸、湧き水などが主な水源でした。
裕福な家庭では、屋根に降った雨水を集めて貯めておく「雨水槽」を備えていることもありました。この雨水は必要になるまで貯水槽に保存され、主に洗濯や調理に使われました。一方、貧しい人々は公共の井戸やポンプから水を汲むしかなく、こうした水源は衛生状態が悪く、しばしば汚染されていたといわれています。
水の濾過と浄化の工夫
安全に水を飲むために、当時の人々はさまざまな濾過・浄化の方法を実践していました。
- 煮沸: 水を沸かすことで細菌などの微生物を死滅させる、最も一般的な方法でした。
- 凝集剤の使用: ミョウバンなどを水に加えることで、不純物を沈殿させて取り除きました。
- 濾過: 砂、木炭、布などで作った簡易的なフィルターを使い、目に見える不純物を除去しました。
水を飲むための容器
水を飲む際に使われた容器も多種多様でした。庶民に最も広く普及していたのは、木製のコップやボウル、杯(ゴブレット)です。一方、身分の高い人々や富裕層は、ピューター(錫合金)、銀、さらには金でできた高価なコップや杯を用いて水を味わっていたといいます。