古代エジプトには、私たちが今日知っているような「お金」という概念は存在しませんでした。硬貨や紙幣といった通貨を交換手段として使うことはなく、人々は物々交換(バーター経済)によって暮らしていました。つまり、ある財やサービスを、別の財やサービスと直接交換する仕組みです。
物々交換でやり取りされたもの
古代エジプトの市場では、穀物、パン、ビール、家畜、亜麻布、装飾品などが日常的に取引されていました。たとえば、農民が収穫した小麦を職人に渡し、その見返りに陶器や道具を受け取るといった具合です。国家も労働者への報酬を、貨幣ではなくパン・ビール・穀物などの現物支給で行っていました。
価値の基準となった「デベン」
とはいえ、まったく基準がないわけではありませんでした。エジプト人は銅や銀の重さを表す単位である「デベン(deben)」を用い、さまざまな商品の価値を比較する目安としていました。たとえば「この牛は何デベン相当」といった形で価格が表現され、取引の公平性が保たれていたのです。
穀物が果たした「準通貨」の役割
特に大麦や小麦などの穀物は、誰もが必要とする保存性の高い商品だったため、事実上の通貨のような役割を果たしていました。官吏への給与や税の徴収も穀物で行われることが多く、穀物庫は国の経済を支える重要な存在でした。
硬貨の登場は後の時代
エジプトに本格的に硬貨が導入されるのは、紀元前5世紀以降、ペルシャやギリシャとの交易が盛んになった時期になってからです。それまでの長い間、古代エジプト経済は通貨に頼らない、独自の物々交換システムによって安定して機能していたのです。