考古学的発見

2000年前のニューロンが無傷で残っていた——ヴェスヴィオ火山噴火で「ガラス化」したヘルクラネウム犠牲者の脳

西暦1世紀、ヴェスヴィオ火山の大噴火で命を落とした若い男性の遺体から見つかった「ガラス化した脳」の断片。その分析の結果、脳細胞(ニューロン)の存在が確認されました。

2000年前のニューロンが無傷で残っていた——ヴェスヴィオ火山噴火で「ガラス化」したヘルクラネウム犠牲者の脳

画像:西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火でヘルクラネウムにて死亡した若い男性の頭蓋骨から採取された、ガラス化した脳組織の切片。

2000年前に亡くなりながらも、塵と消えることはありませんでした。イタリア・ヘルクラネウム遺跡での調査により、当時20代だった若い男性の脳細胞が、ほぼ無傷の状態で発見されたのです。

世界的にも類を見ない発表

この男性は、西暦79年にポンペイとヘルクラネウムの両都市を壊滅させたヴェスヴィオ火山の噴火災害で亡くなりました。米国の科学誌『PLOS ONE』で発表された今回の驚くべき知見は、2020年1月に『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌で報告された最初の論文に続くものです。最初の論文では、2018年にこの男性の頭蓋腔内から、文字通り「ガラス化」した脳の断片が発見されたことが明らかにされていました。この男性の骨格は、ヘルクラネウムの主要な建造物の一つである「アウグスタレス会館(コッレジウム・アウグスタリウム)」で、1960年代に発掘されていたものです。

2000年前のニューロンが無傷で残っていた——ヴェスヴィオ火山噴火で「ガラス化」したヘルクラネウム犠牲者の脳

ヘルクラネウムのアウグスタレス会館。© ヘルクラネウム考古学公園

脳細胞の検出につながったのは、この脳の遺存物に対する詳細な分析でした。分析を主導したのは、ナポリ大学フェデリコ2世(イタリア)の人類骨生物学・法人類学研究室を率いる法医人類学者ピエル・パオロ・ペトローネ氏のチームです。研究は、ナポリ先端バイオテクノロジーセンター(CEINGE)、ローマ・トレ大学、ミラノ州立大学、そしてイタリア国立研究評議会(CNR)との共同で実施されました。

「脳組織の発見は異例の出来事」

研究責任者のペトローネ氏はプレスリリースで、次のように述べています。「脳組織の発見自体がすでに異例の出来事ですが、さらに稀有なのは、2000年前の中枢神経系の神経構造が完全な形で保存されていた点です」。論文の共著者で、ローマ・トレ大学の火山学教授であるグイド・ジョルダーノ氏は、こう説明を加えます。「神経構造が完璧な状態で保存されていたのは、人体組織がガラス化という形へ変化したことによるものです」。

同専門家によれば、この独特なガラス化のプロセスこそが、ヘルクラネウムの住人だったこの男性の中枢神経系の細胞構造をその瞬間に「凍結」させ、今日まで無傷のまま保存することを可能にしたといいます。研究チームは、人体組織のこの変化は、街に降り注いだ火山堆積物が急速に冷えたことで起こったと考えています。当時の温度は500℃に達していた可能性があるとのことです。

科学者たちが微細な神経構造を発見できたのは、頭蓋骨の後部から見つかった、黒曜石のようなガラス質の脳の破片を、走査型電子顕微鏡(SEM)と高度な画像処理技術を駆使して細部まで観察した結果でした。

なお、脳組織の保存は、私たちが思っているよりも一般的な現象なのかもしれません。デンマーク・コペンハーゲン大学の古たんぱく質体学(パレオプロテオミクス)の専門家アレクサンドラ・ヘイワード氏は、『Ars Technica』の取材に対し、現在進行中の他の研究においても「保存された古代の脳からニューロンが検出された」という報告があることを明かしています。専門家の間で、今後さらなる議論が交わされることになりそうです。