考古学的発見

ハンガリーの青銅器時代の共同墓地が解き明かす古代の人口移動――高地位の女性の軌跡

ハンガリーにある青銅器時代の大規模な共同墓地(ネクロポリス)の研究により、この時代の人々の移動の実態をたどることが可能になった。考古学者たちはこの成果をもとに、ある身分の高い女性の人生の軌跡を復元することに成功した。

ハンガリーの青銅器時代の共同墓地が解き明かす古代の人口移動――高地位の女性の軌跡

ヴァチャ文化(Vatya culture)の典型的な埋葬。

ハンガリー最大級の共同墓地の一つには、500基を超える青銅器時代の墓が眠っている。国際的な考古人類学チームはこのうち29基を分析し、その結果を学術誌『PLOS ONE』で発表した。研究では、高い社会的地位を持つ一人の女性の物語が浮かび上がるとともに、当時の共同体間で個人が移動していたという説が裏付けられた。

ジゲトセントミクローシュ=ウルゲヘグ(Szigetszentmiklós-Ürgehegy)共同墓地が使用されたのは、紀元前2150年から紀元前1500年にかけての青銅器時代中期である。ハンガリー中部の平原では、この時期、複数の共同体からなるヴァチャ文化が栄えており、その経済は地域内の交易だけでなく、遠隔地との交易によっても支えられていた。現在のブダペストから数キロ南に位置するこの共同墓地は、火葬墓500基と土葬墓8基で構成されている。数百基の墓が一箇所に集まる「 urn field(壺棺墓地)」と呼ばれるタイプの墓地であり、当時のヨーロッパ各地で広く見られたものである。典型的な墓は陶製の葬送用壺からなり、小さな杯が壺の中またはそばに置かれ、さらに1~2個の壺が蓋として壺口を封じていた。死者には陶器の食器類や、青銅器・骨製の装飾品がしばしば添えられていた。

ストロンチウムが骨に語らせる

壺の中の骨の秘密を解き明かすため、科学者たちはストロンチウム同位体の分析を行った。ストロンチウムは成長期に主に食事を通じて体内に蓄積される元素であり、その同位体比は人が育った環境を特徴的に示す。「そこで私たちは、側頭骨岩様部(内耳の骨――訳注)と歯のストロンチウム同位体組成を調べました。これらは幼少期から青年期にかけて、時期ごとに形成されるものです」と、ボローニャ大学の研究者で本研究の第一著者であるクラウディオ・カヴァッツーティ(Claudio Cavazzuti)氏は、取材に対して語る。この手法により、被葬者の骨に含まれる同位体比を、出土した土地で知られている値と比較することができ、その人物が現地出身かどうかを判別できるのだ。

この方法によって、個人が若い頃にどのように移動したのかを復元することができた。そして興味深いことに、移動性には性別による違いがあることが明らかになった。成人男性は地元出身とみられ、地域外へ出ることはほとんどなかった。一方、成人女性の同位体組成には大きなばらつきが見られ、彼女たちはより頻繁に移動していた可能性が高い。ただし、地域外出身が確実に証明されたのは2人のみだった。この文化は父方居住(パトリローカリティ)と外婚(エクソガミー)の生活様式を持っていたと考えられる。すなわち、婚姻は異なる共同体の間で結ばれ、妻となる女性が外部の共同体から夫の家族のもとへ嫁いだのである。これらの結果は、ヴァチャ文化について従来から唱えられてきた仮説を裏付けるものでもあった。「出土品などの考古学的資料、例えば個人に伴う外来の文物の存在は、ヨーロッパ青銅器時代全体を通じて外婚が広く行われていたことをすでに示唆していました」とカヴァッツーティ氏は述べている。

高地位の女性の足跡をたどる

この現象を最も印象的に示すのが241号墓である。ここからは、25歳から35歳ほどの成人女性とみられる焼失した人骨と、妊娠7~8ヶ月の胎児2体が見つかった。胎児2体の存在は、彼女が双子を身ごもっていたことを示唆している。副葬品には豪華な品々が含まれていた。金製の髪飾りリング、青銅製の首飾り、装飾付きの骨製簪2本である。これはこの共同墓地では唯一無二の装身具セットであり、ヴァチャ文化の他の墓地でも極めて珍しいものである。これは彼女の高い社会的地位を物語っており、この女性はおそらく地域のエリート層の一員だったと考えられる。

ハンガリーの青銅器時代の共同墓地が解き明かす古代の人口移動――高地位の女性の軌跡

241号墓の副葬品:1. 青銅製首飾り 2. 金製髪飾りリング 3. 骨製簪と針 © 2021 Cavazzuti et al.

彼女のストロンチウムのシグネチャーは、大多数の被葬者とは異なっていた。このことから、この女性は8歳から13歳の間にこの共同体へやって来たと推定される。副葬品もこれを裏付けている。青銅製の首飾りの起源は、チェコ南東部、オーストリア南部、あるいはドナウ川流域北部のいずれかであり、検出された同位体の値と一致する。一方、金製の髪飾りリングはこの地域特有のものであり、共同体に加わった後に獲得した彼女の「地元のアイデンティティ」を象徴しているのかもしれない。

これまでストロンチウム分析は、焼けた骨の破片化が非常に激しいため、火葬骨への適用はまれだった。今回の研究でも、共同墓地で見つかった500基のうち分析できたのはわずか29基にとどまった。適用できるケースは限られるものの、得られる情報は非常に価値が高い。「ストロンチウム分析により、集団の移動パターンを観察し、社会が非局所的な個人の受け入れに対してどの程度開かれていたかを見ることができます」とカヴァッツーティ氏は締めくくる。こうした情報は、女性が果たした政治的・社会的役割にも光を当てる。考古学者たちは、この外婚の慣習の目的は、高位の個人同士の間に同盟や経済的パートナーシップといった強固な絆を築くことにあったと推測している。


文:Samantha Dizier