オデュッセウスは本当に息子を「捨てた」のか?
結論から言えば、ホメロスの『オデュッセイア』には、オデュッセウスが自らの意思で息子テレマコスを見捨てた場面は一切存在しません。「息子を捨てた」という印象は、物語の設定――父親が生まれたばかりの子どもを残して長年帰らなかったこと――から生まれた誤解といえます。
トロイア戦争への出征とテレマコスの残された日々
オデュッセウスが故郷イタケーを発ったのは、ギリシャ連合軍の一員としてトロイア戦争に参戦するためでした。出発の時点でテレマコスはまだ幼く、父親の顔をほとんど知らないまま母島に残されることになります。
戦争そのものは10年間続き、さらに帰還の航海でも10年の歳月を費やしたため、オデュッセウスが不在だった期間は実に約20年に及びました。この間、テレマコスは母ペネロペアとともにイタケーで育ち、忠実な豚飼いエウマイオスは、父親不在のテレマコスにとって心の拠り所となる存在でした。
不在の間に何が起きていたのか
王の帰還が絶たれたイタケーでは、ペネロペアに言い寄る求婚者たちが宮殿に居座り、家財を食い潰すという危機が訪れます。成長したテレマコスは女神アテナーの導きにより、父の生存の手がかりを求めてピュロスのネストールやスパルタのメネラーオスを訪ねる旅に出ます。
父子の感動的な再会
物語のクライマックスともいえる場面が、第16歌に描かれた父子の再会です。変装して帰還したオデュッセウスは、エウマイオスの小屋で成人したテレマコスと対面し、正体を明かします。こうして二人は約20年ぶりに絆を取り戻し、共に求婚者たちへの復讐へと向かっていくのです。
まとめ
オデュッセウスは息子を捨てたのではなく、義務として戦争に赴いた結果、長い不在を余儀なくされたのです。『オデュッセイア』はむしろ、離れて暮らした父子が試練を乗り越えて再会し、絆を深める物語として読むことができます。