1819年に下された米国最高裁判所の「マカロック対メリーランド州事件(McCulloch v. Maryland)」の判決は、アメリカ合衆国の憲政史における転換点となりました。この判決がもたらした主な結果を、以下の三点に分けて解説します。
1. 暗黙の権限(黙示的権限)の原則を確立
最高裁は、憲法に明文化されていなくても、連邦政府が憲法上列挙された権限(表現権限)を実際に遂行するうえで必要不可欠な権限、すなわち「暗黙の権限」が存在すると認めました。特に有名なのが、憲法第1条第8節の「必要かつ適切な条項(Necessary and Proper Clause)」に基づく判断です。
この結論により連邦政府の権限は大きく拡張され、逆に州が連邦政府の活動に干渉することは制限されることになりました。連邦銀行の設立を巡る争いでしたが、その影響は金融政策にとどまらず、連邦政府が果たしうる役割全般を根本から定義し直すものでした。
2. 連邦政府の権威を強化
本判決は、連邦政府の権威を大きく高めました。州法と連邦法が対立する場合には連邦法が優越するという「連邦法優位の原則(Supremacy Clause の考え方)」が確認され、州政府から独立して行動できる強力な中央政府という理念が盤石になりました。
メリーランド州が連邦銀行の支店に課税しようとした行為は、「破壊する権限を持つ者は、滅ぼす権限も持つ(the power to destroy involves the power to destroy)」というマーシャル首席裁判官の有名な言葉によって退けられました。これは、州が連邦の制度を税制などを通じて妨害することを許さないという明確なメッセージでした。
3. 司法審査の実践と最高裁の役割の確立
司法審査(違憲審査)、すなわち法律が憲法に違反しているかを最高裁が判断する権限そのものは、先行する1803年の「マーベリー対マディソン事件」で確立されています。しかし、マカロック対メリーランド州事件は、この原則を具体的な政治問題に応用し、最高裁が憲法の解釈を通じて連邦と州の権限関係を画定する存在であることを改めて示しました。
この判決以降、最高裁は立法府・行政府に対する重要な牽制役としての地位を固め、憲法への遵守を担保する最終的な仲裁者として機能するようになりました。
まとめ
マカロック対メリーランド州判決は、①暗黙の権限の容認による連邦政府の権限拡大、②連邦法優位の確認による国家統合の強化、③最高裁による憲法解釈の権威の確立、という三つの大きな遺産を残しました。今日のアメリカにおける強い連邦政府のあり方は、この判決なしには語れないといえるでしょう。