14世紀最大の旅人、イブン・バットゥータ
14世紀に活躍した最も有名なアラブの旅行者は、モロッコ出身のイブン・バットゥータ(1304年頃~1368/69年頃)です。本名はムハンマド・イブン・アブドゥッラーといい、「バットゥータ」は祖先の名前に由来する通称とされています。彼は後世「史上最大の旅行家」の一人として称えられ、その足跡はマルコ・ポーロをしのぐ規模だったとも言われています。
タンジールから始まった壮大な旅
イブン・バットゥータは1304年、モロッコ北部の港町タンジールで生まれました。イスラーム法学を学んだ彼は、21歳のときにメッカ巡礼(ハッジ)へ出発します。ところが巡礼を終えても故郷へ戻ることなく、そのまま旅を続ける道を選びました。以降、彼の人生は文字どおり「旅そのもの」となります。
約30年、12万キロに及ぶ旅路
彼の旅は約30年間にわたり、総移動距離はおよそ12万キロメートルに達したと推定されています。訪れた地域は実に多岐にわたります。
- 北アフリカ:モロッコ、チュニジア、エジプトなど
- 中東:アラビア半島、シリア、イラク、ペルシャ(イラン)
- 東アフリカ:キルワやモンバサなどの沿岸都市
- 中央アジア:現在のトルコや黒海・カスピ海周辺地域
- インド:デリーでスルタンに仕え、法官(カーディー)として活動
- 東南アジア:モルディブ、スマトラ島など
- 中国:泉州(ザイトゥーン)などの港湾都市
- 西アフリカ:マリ帝国の王都まで
船・ラクダ・徒歩などを駆使して広大なユーラシアとアフリカを縦横に渡り、各地の宮廷や学問所、市場、港町を精力的に巡りました。
旅行記『リフラ』の価値
帰国後、彼の口述をもとに学者イブン・ジュザーイーがまとめたのが旅行記『リフラ(諸都市の新奇さと旅の驚異に関する見聞録)』です。この書物は、14世紀のイスラーム世界および周辺地域の社会・文化・政治・風俗を知るうえで極めて貴重な一次資料であり、世界有数の旅行文学として高く評価されています。単なる冒険譚にとどまらず、中世におけるグローバルな人と物の流れを今に伝える歴史資料でもあります。
まとめ
14世紀の有名なアラブ旅行者といえば、モロッコ・タンジール出身のイブン・バットゥータです。北アフリカから中東、中央アジア、インド、中国、東南アジア、さらには西アフリカまで、約30年かけて広大な範囲を旅し、その見聞は『リフラ』として結実しました。彼の記録は、中世世界の姿を知るうえで今なお第一級の歴史的価値を持っています。