結論からお伝えすると、唐代に編纂された「唐本草(新修本草)」は、最初の本草書ではありません。これは唐代にまとめられた中国の薬物学書(マテリアメディカ)の一つであり、それ以前にも先駆となる本草書が存在していました。
現存最古の本草書は「神農本草経」
伝統中国医学における最古の薬物書として知られているのは、後漢時代(1世紀頃)に成立したとされる「神農本草経」です。本書は全365種類の薬物を「上品・中品・下品」の三品に分類し、それぞれの効能や毒性を記述した、中国本草学の原点となる古典です。伝説の帝王・神農の名を冠していますが、実際には長い歳月をかけて多くの人々の経験知が集積されて成立したものと考えられています。
「新修本草」は世界初の官撰薬典
一方、「新修本草(唐本草)」は659年(顕慶4年)、唐の高宗の勅命により蘇敬らが中心となって編纂した国家事業による本草書です。収載薬物数は約850種に及び、「神農本草経」の内容を大幅に増補するとともに、当時シルクロードを通じて伝来した外来薬なども取り入れました。
特筆すべきは、本書が皇帝の勅命によって編まれた世界初の官製薬局方(国家公認の薬物標準書)である点です。「最初の本草書」こそ「神農本草経」ですが、「最初の国家が定めた薬典」という意味では、「新修本草」が医学史上きわめて重要な位置を占めています。
まとめ
「唐の本草書が最初か?」という問いへの答えはノーです。最古の本草書は後漢の「神農本草経」であり、「新修本草」はその流れを受け継ぎつつ、政府主導で編纂された画期的な薬物書だったというのが正確な理解です。