誘拐でも、笛吹き男でも、宇宙人の拉致でもない
ここで語る「消失」は、大規模な誘拐事件でも、ハーメルンの笛吹き男のような伝説でも、宇宙人によるアブダクションでもありません。行政的・経済的な理由によって引き起こされた、いわば「書類の上での消失」のことです。
4月15日――アメリカの確定申告締め切り日
アメリカでは毎年4月15日が連邦所得税の申告締め切り日です。子供1人につき支給される扶養控除(たとえば2008年時点では3,500ドル)を受けるには、一定の所得水準を超えないこと、そして申告書に子供の名前を記載することが条件となっていました。
1987年、IRSがゲームのルールを変更
1987年、日本の国税庁に相当するIRS(Internal Revenue Service/内国歳入庁)は、子供の扶養控除を受けられる条件を次のように変更しました。
申告書には子供のソーシャルセキュリティ番号(社会保障番号)の記載が必須となり、名前だけの申告は認められなくなった。
ソーシャルセキュリティ番号とは何か
アメリカの社会保障番号は、日本の制度とは大きく異なります。これは出生時に割り当てられる9桁の数字で、最初の3桁は発行された地域、続く2桁はより細かい地域コード、最後の4桁は0001〜9999の連番で構成されています。なお、2011年以降は個人情報保護のため、地理情報を含まないランダム化された番号体系へと変更されています。
真夜中、消えた700万人
この変更の結果、1987年4月15日の真夜中、実に約700万人もの子供たちが申告書から姿を消しました。もちろん、子供たちが物理的にいなくなったわけではありません。それまで名前だけで申告できた仕組みを利用し、「実在しない架空の子供」を扶養控除として計上していた不正申告が、番号の提出義務と同時に露呈したのです。
この有名なエピソードは、脱税や税務不正といった行為が、国や文化の違いを問わずどこにでも潜んでいる普遍的な問題であることを、如実に物語っています。
出典
スティーヴン・D・レヴィット、スティーブン・J・ダブナー著『ヤバい経済学(Freakonomics)』より