はじめに
アメリカ合衆国には現在60以上の国立公園がありますが、その大多数はロッキー山脈以西の西部諸州に集中しています。イエローストーン、ヨセミテ、グランドキャニオン、ザイオンなど、世界的に有名な国立公園のほとんどが西部に位置するのはなぜなのでしょうか。その理由は、歴史・地理・政治・経済という複数の要因が絡み合った結果なのです。
歴史的要因
1. 初期の探検と調査
アメリカ西部は東海岸に比べて開拓が大きく遅れており、19世紀に行われた数々の探検や測量を通じて、その壮大な景観と自然の驚異が次々と発見されました。ルイス・クラーク探検隊による大陸横断、ジョン・C・フレモントによる西部踏査、そしてジョン・ウェズリー・パウエルによるコロラド川流域の探検などが代表例です。これらの探検隊がもたらした報告書や記録は、西部の自然が持つ比類なき価値を全米に知らしめることとなりました。
2. 自然保護運動の高まり
19世紀末から20世紀初頭にかけて、アメリカでは自然保護運動が本格的に始まりました。ヨセミテの絶景を世に伝え、国立公園構想の父とも呼ばれるジョン・ミューアや、国有林制度の基礎を築いたギフォード・ピンチョットといった影響力のある人物たちが、原生地域や自然景観の保護を強く訴えました。広大で手つかずの自然が残る西部诸州は、国立公園を設立するのに理想的な場所だったのです。1872年、世界初の国立公園となるイエローストーンが指定されたことも、この流れを決定づけました。
地理的要因
1. 多様で壮麗な地形
アメリカ西部は、ロッキー山脈やシエラネバダ山脈などの山岳地帯、グランドキャニオンに代表される雄大な峡谷、モハーヴェ砂漠などの砂漠、広大な森林、そして太平洋岸の海岸線まで、実に多彩な地形に恵まれています。こうした多様な景観は、それぞれ独自の風景美と生態学的価値を持ち、アウトドアレクリエーションの機会にも富んでいるため、国立公園の指定候補として最適でした。
2. 豊富な連邦政府所有地(公有地)
西部の国土の多くは「公有地」と呼ばれる連邦政府所有の土地でした。これは国立公園設立において決定的な利点となりました。東部のように私有地を広範囲にわたって買い取る必要がなく、すでに政府が管理していた土地をそのまま公園として指定できたのです。実際、イエローストーン国立公園も、当時ほぼ無人だった土地に設立されました。
政治的・経済的要因
1. 西部出身政治家の後押し
西部各州の政治家たちは、自州への国立公園設置を積極的に推進しました。議会での法案承認を得て、公園の設立および維持のための予算を確保するには、彼らの支援が不可欠でした。地元の誇りとなる景勝地を守りたいという思いと、地域振興への期待が、政治的な後押しにつながったのです。
2. 観光産業との相乗効果
西部の観光業は古くから地域経済の重要な柱でした。鉄道会社なども国立公園へのアクセス路線を整備して観光客の誘致に力を入れ、国立公園の設立は全国から訪問者を呼び込む強力な原動力となりました。観光収入は地域経済を支えると同時に、新たな公園設立への機運をさらに高める好循環を生み出しました。
まとめ
このように、探検の歴史と自然保護運動の高まりという歴史的背景、西部ならではの多様で壮麗な地形、連邦政府所有地が多かったという制度的な事情、そして西部の政治家や観光産業からの支援といった複数の要因が重なり合い、アメリカの国立公園の多くが西部諸州に集中することとなったのです。東部では私有地の取得が難しかった一方、西部では手つかずの大自然がそのまま国民共有の財産として守られてきた、というのが実態といえるでしょう。