西暦2540年のユートピア社会
オルダス・ハクスリーのSF小説『ブレイブ・ニュー・ワールド(素晴らしき新世界)』は、西暦2540年を舞台とした架空のユートピア社会を描いています。作中では「フォード暦632年」と表現され、科学技術が高度に発達した「世界国家(ワールド・ステート)」が人類を統治する未来像が展開されます。
物語の中心地:ロンドン
物語の主な舞台となるのは、この世界国家の中心都市であるロンドンです。作中のロンドンは、高度に組織化され、最先端技術によって管理された都市として描かれます。市民は皆満足した生活を送っており、個性や自己主張を追い求めることはむしろ忌避される社会です。ロンドンは世界国家の縮図として機能し、社会を支配する原理や構造が凝縮されて示されます。
中央ロンドン孵化・条件づけセンター
小説の冒頭で登場するのが、中央ロンドン孵化・条件づけセンターです。ここでは人間が従来の出産ではなく、人工的な手法によって大量に生み出され、あらかじめ定められた階級(カースト)の役割に合わせて条件づけられます。ボトルの中で育つ赤ん坊たちの描写は、この作品を象徴する場面の一つとなっています。
その他の重要な舞台
サベージ・リザベーション(野蛮人保留地)
アメリカ・ニューメキシコにある「野蛮人保留地」も欠かせない舞台です。ここは世界国家の管理外に置かれた地域で、旧来の生活様式、宗教、家族制度が今も残る場所として描かれます。もう一人の主人公であるジョン(野蛮人)は、この保留地で育ちました。
フォークランド諸島
フォークランド諸島は、社会に適応できない者たちが送られる隔離地域として言及されます。反逆的な思想を持つ者たちが流される場所であり、世界国家の支配体制を裏側から映し出す存在です。
舞台設定が担う役割
『ブレイブ・ニュー・ワールド』において、舞台設定は単なる背景以上の意味を持ちます。カースト制による身分の固定化、標準化された生殖技術、睡眠時学習(ヒュパーペーディア)、麻薬「ソーマ」の摂取、そして幼少期からの徹底した条件づけ——これらの要素はすべて、この未来社会の価値観と内在する矛盾を浮き彫りにします。
安定と幸福を掲げながら自由を失った世界という設定は、物語全体の雰囲気、テーマ、そして登場人物たちの葛藤を形作る基盤となっています。舞台設定こそが、「幸福とは何か」「自由とは何か」という本作が投げかける普遍的な問いを支えているのです。