ジョン・V・ムラ(John V. Murra)は、現代アンデス研究において最も名高い学者の一人です。本書『アンデス世界の経済的・政治的形成』は、そのムラが執筆した12篇の論考を集成した著作集であり、アンデス史研究における金字塔的作品として広く認められています。
本書の学術的意義
本書の重要性は、二つの側面から説明できます。第一に、歴史文書資料に対する批判的な読み解きと活用方法の刷新です。ムラは植民地時代の文書を単なる記録としてではなく、先スペイン期アンデス社会の構造を復元する手がかりとして再評価しました。
第二に、考古学・民族誌・民族史学(エスノヒストリー)のデータを体系的に統合し、アンデス地域の歴史的過程の理解に資させた点にあります。従来は断片的に扱われていた情報を、一貫した分析枠組みのもとで結び合わせたのです。
後世に与えた決定的な影響
ムラの仕事は、アンデス世界の過去を研究するうえで一つの里程標を打ち立てました。とりわけ彼が提唱した「垂直的統制(バーチカル・アーキペラゴ)」のモデル――標高の異なる複数の環境帯に同時に生活拠点を設けることで、多様な資源へのアクセスを確保していたという先住民社会の経済原理――は、アンデス考古学と民族史学に大きな転換をもたらしました。
その思想は近年、世界中の専門家のサークルに決定的な影響を与え続けており、現在でもアンデス研究の出発点として必読の文献とされています。
刊行情報
本書は、ペルーの有力な学術出版社であるIEP(Instituto de Estudios Peruanos/ペルー研究所)から刊行されました。ラファエル・モレノ(Rafael Moreno)による解説も付されており、研究者のみならず、アンデス文明やインカ帝国に関心をもつ一般読者にとっても価値ある一冊となっています。