「1930年代こそ労働者の勝利の時代」という通説は正しいのか?
「アメリカの労働力は、繁栄した1920年代よりも、大恐慌に見舞われた1930年代の方が大きな進歩を遂げた」という見方があります。しかし、結論から述べれば、この主張はそのまま受け入れることはできません。アメリカの労働者が大恐慌期の1930年代に、好景気だった1920年代を上回る「勝利」を収めたと単純に断言することはできないためです。
1920年代:経済的には恵まれていたが、組織としては後退
1920年代は「狂騒の20年代(Roaring Twenties)」と呼ばれる好景気の時代でした。自動車産業をはじめとする大量生産・大量消費が拡大し、一部の労働者は賃金の上昇や福祉資本主義(welfare capitalism)の恩恵を受けていました。その一方で、第一次世界大戦後に吹き荒れた「赤い恐怖(レッド・スケア)」の影響もあり、労働組合運動は強い圧力を受け、組合員数は減少しました。企業側は会社組合(カンパニー・ユニオン)の設立などを通じて、独立した労働組合の影響力を弱めようとしました。
1930年代:大恐慌による打撃と、ニューディールによる転換
1930年代に入ると、株価大暴落に端を発する大恐慌により、失業率は一時25%近くに達し、労働者は深刻な打撃を受けました。賃金は低下し、雇用は極めて不安定になりました。ただし、この時期にはフランクリン・ルーズベルト政権のニューディール政策のもとで、労働者の団結権を保障するワグナー法(全国労働関係法、1935年)や、最低賃金・時間外割増賃金を定めた公正労働基準法(1938年)といった重要な法制が成立しています。また、CIO(産業別組織会議)の台頭により、鉄鋼や自動車といった基幹産業で組合組織率が大きく伸びました。
「進歩」を何で測るかで答えは変わる
つまり、この問いに対する答えは、「何をもって進歩とするか」によって変わります。賃金水準や雇用の安定といった物質的条件で見れば、1930年代は明らかに1920年代より劣悪であり、「大恐慌期の労働者が1920年代を上回る成果を上げた」という記述は不正確です。一方で、法制度や組織力という観点から見れば、1930年代に重要な足場が築かれたことも事実であり、それが第二次世界大戦後の労働運動の黄金時代につながっていきました。
要するに、「1930年代の方が大きな進歩を遂げた」と一言で言い切るのは誤りです。それぞれの時代の経済状況と、「進歩」の定義を丁寧に区別して評価することが不可欠だと言えるでしょう。