ベッツィー・ロス(Betsy Ross)がアメリカ独立戦争に何らかの形で関わり、初代のアメリカ国旗(星条旗)を縫い上げたという有名な逸話があります。しかし、歴史的に見ると、この話を裏付ける信頼できる証拠は一切存在しないのです。
伝説の背景と成立時期
ベッツィー・ロスの物語が広く語られるようになったのは、彼女の死後、大きく時間が経ってからのことでした。1870年、彼女の孫にあたるウィリアム・カンビーが、家族に代々語り継がれてきた記憶に基づいてこの話を公表したのが始まりとされています。
伝えられるところによれば、1776年にフィラデルフィアの彼女の仕立て屋をジョージ・ワシントンらが訪れ、新しい国旗の制作を依頼したということですが、当時の公文書や同時代の日記・手紙などには、この出来事を示す記録がまったく残っていません。
歴史家たちの見解
多くの歴史家は、ベッツィー・ロスの物語を史実ではなく愛国的な伝説とみなしています。この伝説が特に広まったのは、19世紀後半、建国100周年を祝う米国の式典が盛り上がっていた時期であり、国民の愛国心を高める物語として人々に受け入れられていったと考えられています。
ベッツィー・ロス自身がフィラデルフィアで実在した旗職人・仕立て屋であったことは事実ですが、「初代国旗を縫った人物」という功績については、確固たる歴史的根拠がないため、あくまで伝説として捉えるのが妥当でしょう。