トロイア戦争における最大の悲劇の一つとして知られるのが、トロイア側の英雄ヘクトルの死です。ホメロスの叙事詩『イリアス』によれば、ヘクトルはアキレウスとの一対一の決闘の末、トロイア城壁のすぐ外で命を落としました。
ヘクトルが死んだのは戦争の「最終年」
実は『イリアス』の中には、ヘクトルが戦争開始から何年目に亡くなったのかを示す明確な記述はありません。そのため、正確な時期を断定することはできません。ただし、物語の構成から分かるのは、彼の死がトロイア戦争の最後の年、すなわち伝承上10年目にあたる出来事だったという点です。
『イリアス』第22歌に描かれた決闘
ヘクトルの最期は、『イリアス』第22歌で詳細に語られています。親友パトロクロスを失ったアキレウスが怒りに燃えて戦場へ復帰すると、トロイア軍は城内へ退却。しかしヘクトルだけは一人、城壁の外にとどまり、アキレウスと対峙することを選びました。
当初ヘクトルは恐怖から城壁を巡って逃走しますが、女神アテナが兄弟デーイフォボスに化けて近づき、逃げずに戦うよう仕向けます。こうして二人の英雄による決闘が始まり、最後にはアキレウスの投げた槍がヘクトルの鎖骨付近を貫き、勝負が決しました。
死後の物語も『イリアス』の重要な場面に
ヘクトルの死は物語の結末ではありませんでした。アキレウスはその遺体を戦車に括りつけて引き回すという冒涜的な行為に及びますが、老王プリアモスが夜陰に乗じてアキレウスのもとを訪れ、息子の遺体の引き渡しを懇願します。この感動的な贖罪の場面こそが、『イリアス』全24歌の締めくくりとなっています。
まとめ
『イリアス』にはヘクトルの死亡時期に関する明確な記録はないものの、彼がアキレウスとの一騎打ちで倒されたのは、10年に及んだトロイア戦争の最終年の出来事であると考えられています。トロイア防衛の要であった英雄の死は、その後の戦局ひいては都市の運命を決定づける転換点となりました。