テオドール・ビショフとは何者か
テオドール・ルートヴィヒ・ヴィルヘルム・ビショフ(Theodor Ludwig Wilhelm Bischoff、1807年10月28日~1882年12月5日)は、ドイツの生物学者にして解剖学者である。ハノーファー(現ドイツ)に生まれ、発生学の分野で研究を重ねた人物だ。ハイデルベルク大学では解剖学、ギーセン大学では生理学の教授を務め、ミュンヘン大学では両講座を担当した。1868年には、イギリス最古にしてヨーロッパ屈指の権威を誇る学術団体「王立協会(ロイヤル・ソサエティ)」の外国人会員に選出されている。

「脳の重さ」にこだわった男
彼の「最も重要な研究」の一つとされたのが、人間の脳に関するものだった。ビショフは、男性の平均脳重量を約1,350グラム、女性を約1,250グラムと測定した。当時流行していた「サイズがすべてを決める」という考え方の熱心な信奉者であった彼は、そこからこう結論づけたのである。
「男性の知的能力は、女性のそれを上回る」
遺体を科学に捧げた結果……
ところが、ここで問題が起きた。優れた科学者として自らも模範を示そうと、ビショフは遺言で自分の遺体を科学に寄贈することにしたのだ。これが大失敗だった。
検視の結果、判明した彼の脳の重量は——わずか1,245グラム。自らが「女性の平均」とした数値よりも軽かったのである。自説を証明するはずの寄贈が、まさに自説を打ち砕く結果となった。
この逸話が教えてくれること
現代の神経科学では、脳の絶対的な重さが知能を直接決めるわけではないことが分かっている。体重比で見れば、女性の脳は男性と同等以上の効率を持つとも指摘されている。ビショフの「自業自得」の逸話は、優れた科学者であっても自説に固執すれば、皮肉な結末を迎えうることをユーモラスに物語っている。