古代の歴史

ローマ軍のコホルス(大隊)とは?編成・階級・部隊の種類を解説

コホルス(Cohors)は、古代ローマ軍における基本的な戦術単位で、通常は同一兵種だけで編成された部隊を指します。この制度はマリウスの軍制改革によって確立されました。その後、元首政期以前からこの言葉はより広い意味を持つようになり、一般に「集団」を表す語としても用いられるようになりました。

軍団を構成するコホルス

一個のローマ軍団(レギオ)は、第Iから第Xまでの番号が付けられた10個のコホルスで構成されていました。1個コホルスは3個マニプルス(中隊)からなり、各マニプルスはさらに2個ケントゥリア(百人隊)で編成されます。ただし第Iコホルスだけは例外的に、倍員のケントゥリア5個からなる精鋭部隊でした。

共和政期の三列戦術

共和政ローマの時代、コホルスはハスタティ(hastati)、プリンキペス(principes)、トゥリアリイ(triarii)という3つの戦列に組織され、それぞれ120名・120名・60名で構成されていました。これらの戦列は経験と武技の熟練度によって分けられており、最も若い兵士が最前線を担当し、戦況が悪化すれば次の戦列であるプリンキペスが前に出て戦いました。必要とあらば、プリンキペスもさらに後方の戦列へ譲ることができました。

また、軽装歩兵ヴェリテス(velites)はジャベリン(投げ槍)や投石紐で武装し、戦列前方から敵に投射物を浴びせ、白兵戦が始まると後方へ退く役割を担っていました。

マリウス改革による再編

マリウスの軍制改革により、コホルスはマニプルスに代わる主力の戦術単位となりました。すべての兵士が同一の装備を与えられ、同じ訓練を受けることになります。同時にケントゥリアの定員は100名から80名へと変更されました。その結果、標準的なコホルスは6×80=480名、第Iコホルスは5×160=800名という編成になりました。

指揮官の階級序列

軍のコホルスはケントゥリオ(百人隊長)が指揮し、各コホルスには6人のケントゥリオがいました。最上位のケントゥリオは第Iコホルスを率い、「プリムス・ピルス(Primus Pilus)」すなわち首席百人隊長と呼ばれました。第II〜第Xコホルスの6人のケントゥリオの称号は、序列順に以下の通りです。

  • 第Iケントゥリア:ピルス・プリオル(Pilus Prior)
  • 第IIケントゥリア:プリンケプス・プリオル(Princeps Prior)
  • 第IIIケントゥリア:ハスタトゥス・プリオル(Hastatus Prior)
  • 第IVケントゥリア:ピルス・ポステリオル(Pilus Posterior)
  • 第Vケントゥリア:プリンケプス・ポステリオル(Princeps Posterior)
  • 第VIケントゥリア:ハスタトゥス・ポステリオル(Hastatus Posterior)

これらの称号は旧来の三列戦術に由来しており、ハスタティ系は第III・第VIケントゥリア、プリンキペス系は第II・第Vケントゥリア、トゥリアリイ系は第I・第IVケントゥリアに対応していました。

治安維持部隊としてのコホルス

  • ウルバーナ隊(Cohors urbana):日中の市内治安を担当。近衛隊(プラエトリアニ)のコホルスをモデルに組織されましたが、騎兵分遣隊は持ちませんでした。各コホルスは1,000名で、ウィテッリウス帝以前には1,500名規模だった時期もあります。
  • ウィギレス隊(Cohors vigilum):消火活動と夜間警備を担当。ローマ市内では560名の部隊に分かれ、トリブヌス(隊長)が指揮しました。各コホルスは70〜80名のケントゥリアに分けられ、プリンケプス・ケントゥリオ1名と通常のケントゥリオ6名が指揮を執りました。

その他の各種コホルス

補助兵(auxilia)のコホルスには6〜10個のケントゥリアが置かれていました。騎兵部隊であるアラリア隊(Cohors alaria)は、クインゲナリア(quingenaria)なら500名、ミッリアリア(milliaria)なら1,000名の騎手で構成され、16ないし24個のトゥルマ(turma)に分割され、各トゥルマはデクリオン(decurio)が率いました。

その他にも多様なコホルスが存在しました。

  • Cohors classica:海軍部隊
  • Cohors equitata:騎兵分遣隊を伴う混成部隊
  • Cohors Germanorum:ゲルマン人部隊
  • Cohors milliaria:千人規模の部隊
  • Cohors palatina:宮廷部隊
  • Cohors peditata:歩兵部隊
  • Cohors praetoria:皇帝直属の近衛部隊
  • Cohors togata:近衛兵の一員であり、ローマ市内で武器を帯びることを許された唯一の兵士
  • Cohors quingenaria:五百人規模の部隊
  • Cohors speculatorum:偵察・諜報部隊
  • Cohors torquata:武勲章(トルクス)を授与された部隊
  • Cohors tumultuaria:臨時に召集された非正規の補助部隊