ここに紹介するのは、フィリピン・パナヤ島に伝わる創世神話「世界の創造」です。何もなかった混沌の海から、神バサラがどのように世界を形づくっていったのか、そして自然のどこかに隠された「黄金のマヤ」の秘密とは何なのか。神秘的な物語を紐解いていきます。
はじまりは、果てしない海だけだった
世界がまだ何もない頃、そこには空間へと果てなく広がる大海原があるだけでした。穏やかにうねる水面を、夜の涼しいそよ風がかすかに撫でています。太陽はまだ昇らず、陸はなく、天は広げられておらず、山々もそびえていません。人間も、木も、花も、生き物も存在せず、家も村もありません。あったのは深い孤独と静寂、そしてその栄光の中に佇む偉大なる全能の神だけでした。
創造主バサラと最初の使者
やがて創造主にして全能の神バサラ(Bathala)は、この孤独の中で、ご自身の創造を完全なものにするために必要なものについて思いを巡らせました。まず最初に、創造の業を助ける使者として一人の存在をお作りになります。その名はディアン・マサランタ(Dian Masalanta)。続いて、それぞれが自然の姿を優美かつ美しく形づくる力と技を授かった、下位の神々――ディワタ(diwata)たちを創り出しました。
こうしてマサランタを傍らに、神々しい叡智のもと、至高の神は最も重要な仕事に取りかかったのです。
巨大な卵の誕生
神聖なエネルギーの爆発とともに、強靭な御手から土の塊が次々と飛び出しました。ディアンがそれらを拾い集めると、バサラはそれを高く高く投げ上げ、ついには巨大な卵のような形へと育ちました。神は神聖な息吹でそれを押し上げ、さらに力強く吹き立てます。すると黄金褐色の殻をもつ巨大な卵が、まるで大きな浮標のように頭上で漂い揺れながら浮かび、やがて静止して宙に懸かったのです。
殻が割れ、光と命が満ちる
次に創造の手が卵を回転させ始めました。はじめはゆっくりと、やがて速度を増していきます。そして神は魔法の言葉を唱えました。
「今こそ割れろ、大きな褐色の殻よ!」
稲妻のような雷鳴が轟き、その巨大な丸い形体は爆発音とともに、まるで巨大な蛤の貝殻のように二つの半分へと裂けました。太陽の黄金の輝きが一筋の光となって、海面へと降り注ぎます。
まさにその金色の光が水に口づけた瞬間、広大な水域に命が宿りました。そこから現れたのは、両腕を極点から極点まで広げるほどの巨体をもつ巨人――その名をバラナク(Balanak)といいます。バサラは自らの創造に満足し、微笑みました。そして新たに水から立ち上がった大地を「マサディア(Masadia)」と名づけたのです。
黄金のマヤとディアンの過ち
ちょうどその時、忠実で観察眼の鋭いディアン・マサランタは、自分の手元近くに漂う小さな金色の光に気づきました。手のひらに落ちてきたそれは、柔らかく繊細な光を放つ小さな玉です。彼がその美しい現象を見上げると、なんと小さな鳥の姿が形づくられていました。その精巧で優雅な姿は見事で、鳥はまるで祝福を告げるようにさえずります。
「黄金のマヤだ!」
マサランタは神聖な歓喜のあまり我を忘れ、気づかぬうちにその鳥を逃がしてしまいました。小鳥は大空へと舞い上がっていったのです。
これに激しく不快を覚えた主は、職務を怠ったとしてディアンを厳しく叱責しました。彼の創造の力は取り上げられます。しかしディアンを慰めるため、神はあの小さな黄金のマヤを、神の寵愛の象徴とすることにしたのです。
自然に隠された黄金のマヤ
それ以来、ディアン・マサランタは創造のたびに署名として、さまざまな大きさの小さな黄金のマヤを、自然の驚異のどこかに巧みに隠すようになりました。花弁の先端、蜘蛛の巣の中、キノコの傘の下、華麗な魚の体、道端の小石……隠された鳥のモチーフは枚挙にいとまがありません。
これらのシンボルは、バサラがその創造のすべての場所に与えた祝福を表しています。マヤとは、フィリピンに古くから親しまれてきたスズメの仲間の鳥のこと。もし黄金のマヤを見つけたら、どうか神の御名に感謝を捧げましょう。