古代ローマの歴史を語るうえで興味深いのが、都市の誕生からインフラ整備の始まりまでにどれほどの時間がかかったのかという問いです。結論から言えば、ローマの建国(紀元前753年)からアッピア街道(Via Appia)や水道「アクア・アッピア(Aqua Appia)」が建設された紀元前312年まで、約442年の歳月が経過していました。
紀元前753年——ローマの建国
伝説によれば、ロームルスとレムスの兄弟によって紀元前753年にローマ市が建国されたとされています。当初のローマはテヴェレ川沿いの小さな集落にすぎませんでしたが、王政時代を経て共和政へと移行するなかで、次第にイタリア半島中部の有力な都市国家へと成長していきました。
紀元前312年——アッピウス・クラウディウス・カエクスの時代
建国から4世紀以上が経った紀元前312年、監察官(ケンソル)に就任したアッピウス・クラウディウス・カエクスが、ローマ史上画期的な二大プロジェクトを同時に推進しました。
アッピア街道(Via Appia)
ローマから南東のカプアまでを結ぶ幹線道路で、「すべての道はローマに通ず」という言葉の由来ともされる古代ローマ道路の原点です。軍事輸送や行政通信の要として機能し、後にブラウンディシウム(現在のブリンディジ)まで延伸されました。
アクア・アッピア(Aqua Appia)
ローマ最初の水道であり、全長約16キロメートルに及びます。そのほとんどが地下を通る構造で、市内に清潔な水を安定的に供給することに成功しました。これ以降、ローマでは水道建設が相次ぎ、都市生活の基盤が大きく向上していきます。
442年の歳月が意味するもの
小さな都市国家として誕生したローマが、本格的な道路網や水道網の整備に着手するまでには、長い時間が必要でした。この間にローマは政治制度を固め、周辺諸族との戦いを勝ち抜き、ラティウム地方の覇権を確立しています。つまり紀元前312年のインフラ整備は、ローマが「成長期」から「拡張期」へと転換する節目だったと言えるのです。
この二人のプロジェクトはどちらもアッピウス・クラウディウス・カエクスの名を冠しており、彼の先見性が後のローマ帝国の繁栄を支える土台を築いたことは、歴史の皮肉とも必然とも言えるでしょう。