古代の歴史

「スペードはスペードと言う」の歴史——率直な英語慣用句の由来をたどる

「スペードはスペードと言う(to call a spade a spade)」という英語の慣用句は、たとえ不快であったり角が立ったりする内容であっても、飾りけなく率直に、正直に物を言うことを意味します。この表現には数百年の歴史があり、その起源についてはさまざまな説が語り継がれてきました。

古代ギリシャまでさかのぼる起源

この慣用句の最も古い原型は、古代ギリシャに見ることができます。プルタルコスの著書には、マケドニアのフィリッポス2世が「いちじくはいちじくと、桶は桶と呼べ」と述べたという逸話が残されており、「物事をありのままに呼ぶべし」という精神がすでに表れていました。

その後、この格言はルネサンス期の人文主義者エラスムスによってラテン語へ翻訳されました。この際、原典の「skaphe(桶・鉢)」が「spade(スコップ)」と解釈されたため、「スペードをスペードと言う」という現在の形が生まれたと考えられています。

16世紀、英語圏への定着

16世紀半ば、イギリスの学者ニコラス・ユーダルがエラスムスの著作を英訳した際にこの表現が英語に取り入れられ、以降、英語の慣用句として徐々に定着していきました。

語り継がれる由来の諸説

トランプのゲームに由来する説

一説には、カードゲームとの関連が指摘されます。プレイヤーが獲得できるトリック(札)の枚数を宣言して競うゲームにおいて、宣言が過大であれば、それを認めて訂正しなければならない――つまり「スペードをスペードとして認める」ことが求められた、という説明です。ただし、これは後世につくられた民間語源である可能性もあります。

ピューリタンの倫理観との関わり

別の説では、17世紀イングランドのピューリタン(清教徒)たちの影響が挙げられます。彼らは上流階級の華美な服装や虚飾に満ちた振る舞いを批判し、たとえ相手を不快にしても正直で率直であることを重んじていました。こうした価値観が、この慣用句の精神と響き合い、その広まりを後押ししたと考えられます。

文学と演説にみるこの言葉

この表現は長い歴史の中で、多くの著名な作家や演説家によって用いられてきました。シェイクスピアの時代以降の英文学にも、率直さを称える同種の表現がたびたび登場し、第二次世界大戦中のウィンストン・チャーチルのような指導者たちの演説にも、飾らない物言いを象徴する言葉として受け継がれてきたといわれます。

現代におけるこの慣用句の意味

今日でも「スペードはスペードと言う」は、婉曲表現や建前を排し、事実をありのままに伝えることの比喩として使われています。時に不快な真実を口にすることになるかもしれませんが、それは自分自身と信念に忠実であり続けることの大切さを思い出させてくれる言葉でもあります。

なお、20世紀初頭のアメリカでは、単語「spade」が差別的な意味で乱用された時期があったため、近年の英語圏では文脈に注意して使うべき表現とされることもあります。言葉の歴史を知ることは、その意味と使い方をより深く理解することにつながるのです。