考古学的発見

盗まれたコロンブスの手紙がスペインへ帰還――偽物とすり替えられていた貴重なインキュナブラ

1493年、クリストファー・コロンブスが「新大陸の発見」を報せるために書き送った手紙。その唯一無二の価値を持つ原本が、スペイン・バルセロナのカタルーニャ国立図書館から何者かによって盗み出され、精巧な偽物とすり替えられていたことが明らかになった。事件は10年前にさかのぼる。

盗まれたコロンブスの手紙がスペインへ帰還――偽物とすり替えられていた貴重なインキュナブラ

誰も気づかないうちに「すり替え」されていた貴重な一葉

カタルーニャ国立図書館に所蔵されていたのは、1493年にローマの印刷業者ステファン・プランクが刊行した『Epistola Cristophori Colom De Insulis Indiae supra Gangem nuper inventis(ガンジス川の向こうに recently 発見されたインドの島々について)』の原本である。これは、コロンブスが1492年の航海で「思いもよらなかった土地」を発見したことを、カスティーリャ女王イサベル1世とアラゴン王フェルナンド2世――いわゆる「カトリック両王」――に報告した内容を印刷したものだ。

この文書は「インキュナブラ」と呼ばれる、ヨハネス・グーテンベルク(1400年頃~1468年)による活版印刷術の発明以降、人類史上最初期に印刷された資料の一つにあたり、その価値は計り知れない。

ところが、誰も異変に気づかぬうちに、この貴重な原本は図書館から盗み出され、偽物と入れ替えられていたのである。

7年に及ぶ捜査の末、アメリカで発見

スペイン治安警備隊(グアルディア・シビル)の特別部隊は、推理小説さながらの約7年にわたる捜査の末、ついにこの手紙を取り戻した。鍵となったのは、アメリカ合衆国移民税関執行局(ICE)との協力だった。

スペイン紙エル・パイス(El País)が伝えたところによれば、「アメリカでの警察捜査が本格的に始動したのは2011年。ICEが、この手紙が市場に出回っており、仲介業者たちが富裕な買い手を探していることを突き止めたのがきっかけだった」という。情報を受けたカタルーニャ図書館が鑑定士に調査を依頼した結果、2012年、バルセロナに保管されていた文書が偽物であることが確認された。

こうして失われた原本は、アメリカ東部デラウェア州で、それが盗品だと知らないまま入手したと思われる人物の手にあることが判明。2018年6月6日、ワシントンのスペイン大使館にて、正式にスペイン側へ引き渡された。

盗まれたコロンブスの手紙がスペインへ帰還――偽物とすり替えられていた貴重なインキュナブラ

事件解決の糸口をつくったのは、偶然にも同じ鑑定士

興味深いことに、事件解決に大きく寄与したのは、偽物を見抜いたあの鑑定士自身だった可能性がある。盗まれた手紙の最後の潜在的な買い手が、真贋を確かめるために彼に鑑定を依頼したのだ。鑑定士はその人物を説得し、手紙を当局へ引き渡させた。

これにより捜査当局は、貴重な書簡がたどってきた波乱の旅路を突き止めることになった。窃盗後、手紙はすでに2度持ち主を変えていた。2005年に「二人のイタリア人」によって60万ユーロで売られ、さらに2009年にはブラジルで100万ドルで取引されていたのである。

盗まれたコロンブスの手紙がスペインへ帰還――偽物とすり替えられていた貴重なインキュナブラ

同じ手口の被害はほかにも――フィレンツェとバチカン

この奇妙な窃盗犯の犯行は、今回が初めてではないかもしれない。コロンブスの手紙は、この驚くべき知らせをヨーロッパ中に広めるため、早くも1493年にラテン語で複数部「印刷」されており、現在までに世界各地に16部が現存している。

しかしカタルーニャの地元紙ラ・バングアルディア(La Vanguardia)が指摘するように、イタリア・フィレンツェのリッカルディアーナ図書館やバチカン(聖座)でも、同じ手口によるすり替え被害が発生していた。このうち最初の1通はアメリカで発見され、2016年にイタリアへ返還されている。残る1通の行方は、今もわかっていない。

盗まれたコロンブスの手紙がスペインへ帰還――偽物とすり替えられていた貴重なインキュナブラ

コラム:「ガンジス川の向こうのインド」という誤解

西回りの航路でアジアを目指したジェノヴァ出身の航海者コロンブスは、大西洋を渡り切った先が「ガンジス川の向こうのインド」――すなわちアジアの最前線であると信じ込んでいた。だが彼が実際に足を踏み入れたのは、ヨーロッパ人が知らなかった新大陸、アメリカ大陸だったのである。