考古学的発見

アッカド帝国はなぜ突然滅んだのか?――サンゴが明かす古代文明崩壊の謎

メソポタミアに栄華を誇ったアッカド帝国の崩壊には、砂嵐を伴う冬の激しい風が深く関わっていたとされています。

アッカド帝国はなぜ突然滅んだのか?――サンゴが明かす古代文明崩壊の謎

シャル・カリ・シャッリ王の書記官イブニ・シャルルムの円筒印章の押印。アッカド美術の傑作として知られています(ルーヴル美術館蔵)

紀元前24世紀から前22世紀にかけて、アッカド帝国は初代王サルゴンとその後継者たちによる大規模な征服活動のもと、メソポタミア全域を支配下に収めました。ところが帝国は紀元前2200年頃に突如として崩壊し、この地域の大都市国家群はその後およそ300年もの間、人けのない廃墟と化していました。

この衰退の原因については、社会的要因と気候要因の両方が指摘されてきましたが、化石サンゴの分析によって考古学者たちの仮説が裏付けられることになりました。

サンゴが記録する古代の気候

日本の複数の大学からなる研究チームは、かつてのアッカド帝国の中心部にあたるハブール渓谷の遺跡テル・レイラン周辺について、気温と水文環境の変化を古気候学的に復元しました。そのために用いられたのが、オマーン湾で採取された約4100年前の化石サンゴです。得られたデータは、気候モデルや他地域のより新しいサンゴの測定結果と照合されました。

アッカド帝国はなぜ突然滅んだのか?――サンゴが明かす古代文明崩壊の謎

赤い星印は化石サンゴの採取地点を示す。© Watanabe T.K. et al, The Geological Society of America. September 2, 2019

学術誌『Geology』に発表された研究成果によると、当時のこの地域では極端な干ばつが繰り返し発生し、冬季には「シャマル」と呼ばれる暴風が砂や塵を巻き上げる猛烈な砂嵐を引き起こしていたことがわかりました。こうした異常気象は深刻な食糧不足をもたらし、飢饉や社会的混乱を招いたと考えられます。これらの混乱は、外部からの侵入によって領土を次第に侵食されていたアッカド帝国の衰退に、さらなる拍車をかけたのです。

アッカド帝国はなぜ突然滅んだのか?――サンゴが明かす古代文明崩壊の謎

オマーン湾で採取された化石サンゴ。© 北海道大学

「4.2千年イベント」と呼ばれる気候変動

サンゴのデータが明らかにしたのは、激烈な干ばつの時代の存在でした。この干ばつはメソポタミアにとどまらず、地球規模で発生したものであり、地質学者の間では「4.2千年イベント(4.2kaイベント)」として知られています。これは過去1万年で最も重大な干ばつの一つであり、アッカド帝国の滅亡のみならず、他のいくつかの文明の終焉にもつながりました。古代エジプト王国の弱体化、インダス文明の崩壊、そして中国中部の新石器時代文化の衰退にも影響を及ぼしたと考えられています。