考古学的発見

エジプト・アスワンでミイラ約30体が眠るギリシャ・ローマ時代の家族墓を発見

エジプト・アスワン西岸のアーガー・ハーン廟周辺で、これまで知られていなかった大型の家族墓が発見されました。発掘を主導したのは、ミラノ大学のエジプト学者パトリツィア・ピアチェンティーニ教授と、エジプト考古庁(SCA)アスワン・ヌビア遺物局長アブデルモネイム・サイード氏が共同で率いる「西アスワン伊埃合同調査団(EIMAWA)」です。2021年5月から10月にかけて実施された長期調査における大きな成果となりました。

300基以上の墓が眠るアーガー・ハーン墓地

伊埃合同チームは2019年以来、ナイル川西岸に位置するアーガー・ハーン廟周辺の調査を続けています。この一帯には、紀元前6世紀から紀元後4世紀にわたって築かれた300基を超える墓が点在する広大なネクロポリス(死者の町)が広がっています。

謎の火災の痕跡を残す大型墓「AGH032」

今回新たに見つかったのは、ギリシャ・ローマ時代に築かれた大型墓「AGH032」です。古代に盗掘の被害を受けていましたが、内部からは約30体のミイラと、数多くの貴重な遺物が見つかりました。

墓は保存状態の良い長方形の建造物に覆われて隠されており、その表面には埋葬にも影響を及ぼしたとみられる謎の火災の深刻な痕跡が残っていました。

エジプト・アスワンでミイラ約30体が眠るギリシャ・ローマ時代の家族墓を発見

建造物の東壁は、動物の骨(大半は子羊のもの)、陶器片、供物皿、ヒエログリフの刻まれた石板などを含む巨大な堆積層に覆われていました。このことから、ここが礼拝の場として使われていた可能性が指摘されています。こうしたタイプの構造物がアーガー・ハーン墓地で確認されたのは、今回が初めてです。

ギリシャ語の銘板が語る被葬者「ニコストラトス」

特筆すべき発見として、建造物の東壁付近から男性のミイラが見つかり、その傍らにはギリシャ語で「ニコストラトス」という名を刻んだ銘板の付いた銅の首飾りがありました。この男性は本来、後に建造物の下から発見される墓に安置されていたとみられますが、その墓は古代の盗掘者によって荒らされていました。

エジプト・アスワンでミイラ約30体が眠るギリシャ・ローマ時代の家族墓を発見

複雑な封鎖システムで守られた入り口

墓への入り口には、一部に彫刻を施した石块が並ぶ階段が続き、日干しレンガのヴォールト天井で覆われています。入り口は、階段の上方で元の位置のまま見つかった石板や石塊を組み合わせた複雑な仕組みによって、厳重に封鎖されていました。

入り口の前からは、残念ながら粉々に砕けた状態の大型の供器が出土し、その中には今もシカモア(エジプトイチジク)のさやが残っていました。

岩盤に掘られた4つの墓室と約30体のミイラ

墓の内部は前室を中心に構成され、岩盤に直接掘り込まれた4つの埋葬室が設けられています。前室の入り口前では、子供のミイラと美しいカルトナージュ(ミイラを覆う装飾を施した張り子の一種)を納めた粘土製の棺が発見されました。

また、埋葬室の一つから見つかった別の子供のミイラをX線撮影したところ、胸郭の内側に銘板が収められていることが判明しました。

岩盤を穿って造られた4つの墓室からは、合計でおよそ30体のミイラが見つかっています。驚くほど良好な保存状態の個体もあれば、古代の盗掘者によって包帯やカルトナージュを切り裂かれた個体もあり、犯人が使用したとみられるナイフが実際にミイラの間から発見されました。

被葬者には、変形性関節症の徴候から判断できる高齢者もいれば、女性や幼い子どもたち――乳児まで――も含まれていました。

エジプト・アスワンでミイラ約30体が眠るギリシャ・ローマ時代の家族墓を発見

X線分析が明かす古代アスワンの人々の病と暮らし

西アスワン伊埃合同調査団は、2021年にAGH032号墓で見つかった30体に加え、2019年に発見されたAGH026号墓の45体についても、人類学的・放射線学的な分析を実施しました。目的は、それぞれの年齢・性別の推定と、罹患していた可能性のある疾病の特定です。調査では携帯型X線装置が現場で直接活用されました。

その結果、AGH026号墓では被葬者の30%が新生児期からおよそ10歳までの子どもであることがわかりました。残りの遺体の多くは女性でした。また、母・父・息子が並んで埋葬された例など、少なくとも3つの家族単位の埋葬が確認されています。

骨の分析からは、感染症や代謝性疾患を患っていたとみられる個体があることも判明しました。ある成人の大腿骨には明確な切断(截肢)の痕跡が残っており、骨の修復を示す仮骨(カルス)が形成されていたことから、この人物は手術後も生き延びていたと考えられます。その他の遺体にも変形性関節症の所見が見られ、高齢まで生き抜いた末に亡くなったことを物語っています。

彩色が今も残る石棺も多数

一帯の調査ではこのほか、ファラオ時代末期からローマ時代にかけての、石製または粘土製の保存状態の良い石棺が数基見つかっています。中には美しい彩色が今なお鮮やかに残るものもあります。子ども用2基と大人用3基の石棺が、他の石棺の破片類とともに収集され、保管施設に移送されました。

今回の発見は、エジプト語のヒエログリフとギリシャ語の銘文が同じ墓域で共存するなど、ヘレニズム・ローマ支配下のエジプトで多文化的な要素が葬送習慣の中に融合していた様子を示す貴重な事例として、今後の研究が大いに期待されます。