
婦人科を描いた図版:子宮内の胎児(この版画は1700年代に制作されたもの)
西洋医学の祖となった古代ギリシャ人
古代ギリシャ人は婦人科学をはじめとする医学全般において極めて高度な知識を持ち、「西洋医学の父祖」と呼ぶにふさわしい存在でした。彼らが築き上げた医学体系は、後世のローマ帝国を経てアラビア世界へ伝わり、やがて近代ヨーロッパ医学の基盤となっていきます。
当時の時代背景を考慮すれば、その知識と治療法は驚くほど先進的だったと言えるでしょう。病気を神罰ではなく自然な原因から説明しようとした点は、特筆に値します。
『ヒポクラテス全集』に記された不妊治療
ここで紹介するのは、紀元前5〜6世紀に編纂された医学書『ヒポクラテス全集』(Corpus Hippocraticum)の中に記録された、妊娠を促進することを目的とした処方です。
現代の私たちの目には奇異に映る治療法かもしれません。しかし当時は、十分な解剖学的知識も医療器具も存在しなかったため、医師たちは自然由来の薬物や民間療法に頼るほかありませんでした。効果が確実だったわけではないものの、経験則に基づいて試行錯誤を重ねた痕跡がうかがえます。
実際の処方内容
「月経が始まる前に、樹脂(松脂)、杉、牛の脂肪を原料とした坐薬(膣用坐剤)を、1日2回膣内に挿入せよ」
樹脂には防腐・殺菌作用が、牛の脂肪には滑沢作用があると考えられており、子宮の状態を整え、受精しやすい環境をつくることを意図した処方だったと推測されます。奇抜な印象を受けますが、天然素材を用いた点では、現代の漢方やハーブ療法にも通じる発想だと言えるでしょう。