
「決闘」と聞くと、名誉にかけて命を懸ける壮絶な一騎打ちを思い浮かべる人が多いでしょう。実際、16世紀から19世紀にかけてのヨーロッパでは、決闘によって多くの貴族が命を落としました。しかし中には、剣を交えた末に互いを認め合い、友好的に幕を引いた例もあります。今回は、そんな稀有な「ハッピーエンド」を迎えた決闘の記録をご紹介します。
歴史雑誌が特集した「決闘」の世界
イタリアの歴史雑誌『ストリカ(Storica)』69号(2014年11月号)には、決闘だけを掘り下げた興味深い特集記事が掲載されています。当サイトで以前ご紹介した、若き天才数学者エヴァリスト・ガロアが決闘で命を落とした顛末を扱った記事も、この特集がヒントのひとつでした。
特集で伝えられている数々の情報の中でも特に注目なのが、決闘の当事者の一人が自ら書き残した記録です。語り手はフランスの貴族ポール・ド・ゴンディ(1613~1679)。後にカルデナール・ド・レツの名で知られるようになる人物です。
20歳の決闘――相手はアルクール伯
ド・ゴンディが20歳のころ、剣先を交えて戦った相手は、同じ貴族階級のアルクール伯でした。このアルクール伯こそ、のちに大哲学者ヴォルテールの伴侶となるデュ・シャトレ夫人が、若き日に想いを寄せていた男性だったといわれています。
以下は、ド・ゴンディ自身による生々しい証言です。
「私たちはサン・マルセル郊外の先にある草原で剣を交えた。相手の剣先が私の胸をかすめて打ち倒され、私は地面に転がった。ここで負けかと思われたが、その瞬間、相手の手から剣が滑り落ちた。私はすかさず自分の剣を短く握り直し、相手の脇腹を突こうとした。ところが彼は私より大柄で、はるかに力が強かった。私の腕を地面に押さえつけられ、完全に身動きを封じられてしまったのだ。互いに傷をつけられないまま膠着していたとき、彼が口を開いた。『立ち上がろう。こんなふうに争うのはみっともない。君は立派な男だ。私は君を尊敬している。この状況でなら、私に君を挑発する意思はなかったとはっきり言っても構わない』と」
名誉ある結末
つまるところ、これは文字どおり「紳士の決闘」でした。死闘を繰り広げながらも、最後には互いの武勇と人格を認め合い、無用な恨みを残さずに終わったのです。命懸けの戦いでありながら、幸いにもハッピーエンドで幕を閉じた、決闘史上でも珍しい美談といえるでしょう。