1819年にアメリカ合衆国最高裁判所で判決が下された「マカロック対メリーランド州事件(McCulloch v. Maryland)」は、連邦政府と州政府の権限関係をめぐる歴史的な判例として知られています。この記事では、この訴訟に関わった主要人物——原告、被告、そして双方の弁護人——をそれぞれ詳しくご紹介します。
原告:ジェームズ・W・マカロック(James W. McCulloch)
原告となったのは、合衆国第二銀行(Second Bank of the United States)ボルチモア支店の支店長代理(キャッシャー)を務めていたジェームズ・W・マカロックです。
当時、メリーランド州議会は州内で営業する銀行に対して課税を行う法律を成立させました。マカロックはこの州税の支払いを拒否したため、訴追されることになりました。彼自身は単なる銀行職員でしたが、この訴訟は「連邦議会に国立銀行を設立する権限があるのか」「州は連邦機関に課税できるのか」という憲法上の根本問題を争う場となりました。
被告:メリーランド州(State of Maryland)
被告側に立ったのはメリーランド州です。同州は、州内で活動する合衆国第二銀行ボルチモア支店に対して税金を課すことを正当化し、州の主権と課税権を擁護する立場を取りました。州の権限を重視する立場から、連邦政府の権限拡大に強く反対していたのです。
原告側の弁護人
ダニエル・ウェブスター(Daniel Webster)
原告側を代表する弁護人の一人が、元上院議員であり後に国務長官も務めたダニエル・ウェブスターです。彼は当時を代表する雄弁家・法律家として名高く、連邦の権威を擁護する立場から力強い弁論を展開しました。最高裁判所での口頭弁論において、連邦議会の「暗黙の権限(implied powers)」を正当化する中心的な役割を果たしたとされています。
ルーサー・マーティン(Luther Martin)
もう一人の原告側弁護人が、元合衆国司法長官のルーサー・マーティンです。興味深いことに、マーティンは1787年の憲法制定会議にメリーランド州代表として出席しながら、最終的に憲法への署名を拒否した人物でもあります。彼は豊富な法的経験と実務知識をもって、マカロック側の訴訟戦略に貢献しました。
被告側の弁護人
ウィリアム・ワート(William Wirt)
被告であるメリーランド州側の弁護を担当したのが、当時の合衆国司法長官ウィリアム・ワートです。ワートは長く司法長官を務めた著名な法律家で、州の課税権の正当性を主張しました。
ジョン・グレン(John Glenn)
もう一人の被告側弁護人は、メリーランド州司法長官のジョン・グレンです。州の代表として、メリーランド州が制定した課税法の合法性を擁護する役割を担いました。
まとめ
マカロック対メリーランド州事件は、一見すると銀行職員一人と一つの州との争いに見えますが、その実態は「連邦対州」というアメリカ憲政の根幹に関わる対決でした。最高裁判所は首席判事ジョン・マーシャルの筆による判決の中で、連邦議会には憲法に明記されていない権限も含めて必要な措置を取れると判断し、「暗黙の権限」の理論を確立しました。この判決は今日に至るまで、連邦政府の権限に関する議論の基礎となっています。