ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の中で最も劇的な場面の一つが、オデュッセウスによる求婚者たちへの復讐です。その最初の犠牲となったのが、求婚者の中心人物アンティノウスでした。
物乞いに変装したオデュッセウス
トロイア戦争から20年ぶりに故郷イタケーへ戻ったオデュッセウスは、女神アテナの力を借りて老いた物乞いの姿に変装し、自らの宮殿へ忍び込みます。彼はこの姿で、妻ペネロペに言い寄る求婚者たちの振る舞いを自らの目で確かめたのです。
アンティノウスが誅殺された三つの理由
1. ペネロペへの無礼
アンティノウスは、夫の帰還を待ち続けるペネロペに対して極めて失礼な態度を取っていました。主人の家で食料や財産を勝手に浪費し、妻を辱めるような行動を繰り返していたのです。
2. テレマコスへの敵意
さらにアンティノウスは、オデュッセウスの息子テレマコスにも敵対的でした。父と再会しようと旅立ったテレマコスの命を狙い、帰路で待ち伏せして殺害しようとした張本人でもあります。
3. オデュッセウス殺害計画の首謀者
決定的だったのは、アンティノウスが求婚者たちのリーダー格であり、オデュッセウスがイタケーに帰還した際に彼を殺害する陰謀を主導していたことです。王位と財産を奪うためには、正当な君主であるオデュッセウスの存在が邪魔だったのです。
復讐の矢はアンティノウスに
弓の試練の場面では、変装した物乞い(オデュッセウス)に対してアンティノウスは足台を投げつけるという暴挙に出ます。そしてオデュッセウスが弓の弦を張り終えた瞬間、放たれた最初の矢はアンティノウスの喉を貫きました。これは単なる復讐ではなく、彼の数々の不敬と陰謀に対する裁きだったといえるでしょう。
こうしてアンティノウスの死は、オデュッセウスの正体が明かされる決定的な瞬間となり、残りの求婚者たちへの粛清へとつながっていきます。