「史上最長の遺書」とは何か?
「史上最長の遺書(the longest suicide note in history)」——この一見不気味なフレーズを耳にすると、実際に存在した膨大な遺書を想像する人が多いかもしれません。しかし驚くことに、これは現実の遺書を指す言葉ではありません。
この表現が指しているのは、イギリスの作家ダニエル・デフォー(Daniel Defoe)による小説『ロビンソン・クルーソー』(原題:The Life and Strange Surprising Adventures of Robinson Crusoe, of York, Mariner)です。つまり「史上最長の遺書」とは、ある文学作品に付けられた皮肉めいた愛称なのです。
『ロビンソン・クルーソー』はどんな作品?
『ロビンソン・クルーソー』は1719年に出版された小説で、イギリス文学における最初期の長編小説の一つとされています。主人公ロビンソン・クルーソーは海難事故で無人島に漂着し、なんと28年もの間、孤島での生活を余儀なくされます。
絶望的な状況の中で死と隣り合わせに生きる男が、自らの経験を日誌のように綴っていく——その内省的で長大な物語のあり方が、「遺書」という比喩を生んだのだと考えられます。一人きりの島で自分自身に向けて筆を執り続ける姿は、まるで死を見つめた独白、すなわち遺書のように映ることがあるのです。
なぜ「遺書」と呼ばれるのか
もちろん、この作品が本当に遺書であるわけではありません。あくまでユーモアや皮肉を込めた言い回しです。それでも300年以上の時を経て今なおこのような形で語り継がれているのは、それだけ読む人の心に強い印象を残す物語だからこそと言えるでしょう。
ちなみに、「史上最長の遺書」というフレーズは政治の世界でも有名です。イギリス労働党の1983年総選挙マニフェストは、その内容の過激さが敗北を招いたとして、当時の議員ジェラルド・カウフマンによって「史上最長の遺書」と評されました。このように、自滅につながりかねない長文の文書を揶揄する際に使われる、皮肉たっぷりの表現なのです。
まとめ
「史上最長の遺書」は、実際の遺書ではなく、ダニエル・デフォーの名作小説『ロビンソン・クルーソー』(1719年刊)を指す言葉です。文学史に残るこの傑作が、今もこうした逸話とともに語られるのは、時代を超えた物語の力の証だと言えるでしょう。