結論から言えば、先史時代のいわゆる「洞窟人」が、住処となる洞窟を持ち歩きながら旅をすることはありませんでした。洞窟や岩陰といった天然の避難所は、あくまで彼らが一時的に暮らす「拠点」であり、持ち運べるものではなかったからです。
洞窟は「家」というより「季節の拠点」
氷河期のヨーロッパなどで洞窟に住んでいた人類(ネアンデルタール人や初期のホモ・サピエンス)にとって、洞窟は雨風や外敵、厳しい寒さから身を守れる貴重な場所でした。しかし、彼らは同じ洞窟に一年中住み続けていたわけではなく、獲物の移動や気候の変化に合わせて、季節ごとに拠点を変えて生活していたと考えられています。
移動の際には別の住まいを「その場で」作っていた
では、洞窟を離れて移動する間、彼らはどこで寝起きしていたのでしょうか。答えは「その場で簡単な住居を作る」です。考古学的な発見によれば、当時の人類は次のような仮設住居を利用していました。
- 獣皮のテント: 動物の皮や毛皮を木の支柱に張って作った、簡易なテント状の住まい
- マンモスの骨を使った住居: 東欧などの遺跡からは、マンモスの巨大な骨や牙を組み上げて作られた住居の跡が見つかっています
- 小屋や風よけ: 枝や草、土などを組み合わせた、数日〜数週間程度で使える簡素なシェルター
つまり彼らは「家を持ち運ぶ」のではなく、「必要な場所で必要な住まいを作る」という、極めて合理的な方法で移動生活を送っていたのです。
現代の遊牧民との違い
テントを積んで移動する現代の遊牧民とイメージが重なるかもしれませんが、決定的な違いは「道具と技術のレベル」にあります。先史時代の人類には、軽量で繰り返し使える組み立て式の住居を作る技術や素材が限られていました。そのため、移動のたびに住居を作り直すか、天然の洞窟や岩陰に頼るしかなかったのです。
まとめ
洞窟人が洞窟を「故郷」として持ち出して旅をすることはありませんでした。洞窟はあくまで季節的に利用する安全な拠点であり、実際の移動の際には、獣皮や骨、枝などを材料とした仮設住居をその都度建てて暮らしていました。この柔軟な生活様式こそが、過酷な環境を生き抜くための知恵だったと言えるでしょう。