「征服王ウィリアムはヘイスティングスの戦いで死んだふりをした」という話を耳にすることがありますが、これを裏付ける歴史的な証拠は一切存在しません。むしろ記録が示しているのは、ウィリアムが終日最前線で戦い続けた勇敢な指揮官だったという事実です。
戦場で馬を失ったウィリアム
1066年10月14日、イングランド南部で行われたヘイスティングスの戦いは、ノルマンディー公ウィリアムとイングランド王ハロルド・ゴドウィンソンが王位を懸けて衝突した、中世ヨーロッパ史の転換点となった戦いです。この激戦の中で、ウィリアムは一時大きな危機に陥りました。彼の乗っていた馬が敵の攻撃によって倒されたのです。
当時、指揮官が落馬したという噂は、瞬く間に「指揮官戦死」の報として広まりかねませんでした。実際、ウィリアムが討たれたという噂が軍中に流れ、ノルマン軍の一部は撤退を始めたとも伝えられています。
兜を掲げて味方を鼓舞した瞬間
ここで有名な逸話が登場します。バイユーのタペストリーにも描かれたこの場面では、ウィリアムは兜を脱ぎ捨てて顔をあらわにし、「私は生きている」と兵士たちに示したと伝えられています。この機転によって、動揺していたノルマン軍は再び結束し、反撃へと転じることができました。
つまり、ウィリアムが「死んだふりをした」のではなく、むしろその逆です。彼は自らの生存をはっきりと示すことで、崩れかけた軍の士気を立て直したのです。
戦いの帰結
夕暮れ近く、ハロルド王が戦死すると(伝承では目に矢を受けたとされます)、イングランド軍は崩壊しました。この決定的な勝利により、ウィリアムは同年のクリスマスにウェストミンスター寺院でイングランド王として戴冠し、後世「征服王」と呼ばれることになります。
まとめ
ウィリアムがヘイスティングスで死んだふりをしたという説には何の根拠もありません。彼は終始前線で戦い、愛馬を失うという危機に見舞われながらも、自ら姿を示して軍を鼓舞し、歴史を変える勝利をつかみ取ったのです。