アフリカの歴史

サラディンがエジプトを支配しキリスト教国家への攻撃を開始したとき、十字軍は事実上終結したのか?

12世紀後半、アイユーブ朝を樹立したサラディン(サラーフ・アッディーン)がエジプトとシリアを支配下に置き、レヴァント地方のキリスト教国家(十字軍国家)への攻勢を強めたことは、十字軍の歴史における重大な転換点となりました。しかし、「この時点で十字軍運動は事実上終結したのか」という問いに対する答えは「ノー」です。

ヒッティーンの戦いとエルサレム陥落――歴史の転換点

1187年、サラディンはヒッティーンの戦いでエルサレム王国の主力軍を壊滅させ、同年7月にはエルサレムを奪還しました。第一次十字軍以来、ほぼ90年間キリスト教徒の手にあった聖都の陥落は、西欧世界に衝撃を与えました。確かにこれは十字軍国家にとって致命的な打撃であり、運動全体の流れを大きく変える出来事でした。

それでも十字軍は続いた

しかしながら、サラディンの勝利をもって十字軍が終わったわけではありません。むしろ、エルサレム喪失は新たな十字軍遠征の口火を切るきっかけとなりました。

最も有名なのが、1189年から始まった第三回十字軍です。イングランド王リチャード1世(獅子心王)、フランス王フィリップ2世、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世といったヨーロッパの有力君主たちが参加しました。エルサレムこそ奪還できなかったものの、十字軍はアッコを攻略し、海岸部のいくつかの都市を回復してラテン王国を存続させています。

さらにその後も、13世紀から14世紀にかけて第四回十字軍(1204年のコンスタンティノープル占領)、第五回十字軍、皇帝フリードリヒ2世による第六回十字軍、フランス王ルイ9世(聖王)率いる第七回・第八回十字軍など、数多くの遠征が実施されました。これらの遠征は総じて成果に乏しく失敗に終わることが多かったものの、十字軍の理念と活動自体は長く生き続けていたことを示しています。

結論――転換点であって終焉ではない

まとめると、サラディンの台頭と1187年の勝利は、十字軍の歴史における決定的な転換点ではありましたが、十字軍を終わらせた出来事ではありません。十字軍運動はその後も数百年にわたり続き、歴史家の間では1291年のアッコ陥落をもって十字軍国家の終焉とみなすのが一般的です。サラディンの征服は十字軍の性格や方向性を大きく変えましたが、運動そのものを単独で終結させたわけではないのです。