ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』第11歌では、主人公オデュッセウスが故郷イタケーへの帰還の途上、冥界を訪れます。この有名な場面は「ネキュイア(冥界下り)」と呼ばれ、ギリシャ神話における最も重要なエピソードの一つです。オデュッセウスは、帰還の方法を知るために盲目の予言者テイレシアスの霊に助言を求めるよう、魔女キルケーから指示されていました。
冥界で出会った主な人物たち
予言者テイレシアス
オデュッセウスが最初に正式に対話したのは預言者テイレシアスです。テイレシアスは、海神ポセイドンの怒りが帰還の最大の障害であること、太陽神ヘーリオスの聖なる牛を決して食べてはならないことなど、今後の旅路に関する重要な予言を伝えます。
母アンティクレイア
意外なことに、冥界には亡き母アンティクレイアの霊が現れました。オデュッセウスは母の死をこの時初めて知り、涙ながらに再会します。母は息子を待ちわびて病で逝ったことを告げ、生者と死者の隔たりの悲しさを語りました。
アガメムノーン
トロイア戦争の総大将アガメムノーンは、帰還後すぐに妻クリュタイムネストラとその愛人アイギストスの手によって殺された顛末を語り、オデュッセウスに「妻といえども決して油断するな」と警告します。
アキレウスとパトロクロス
最大の英雄アキレウスは、死後も高い栄誉を保っているものの、こう語ります。「地上で誰にも知られず貧しく仕えるほうが、死者の国で全ての死者を支配するよりも良い」と。親友パトロクロスの霊もまた、戦友たちの中に姿を見せました。
大アイアス
テラモンの子アイアス(大アイアス)は、かつてアキレウスの武具をめぐってオデュッセウスと争い、自ら命を絶った過去があります。そのため生前の敵意を抱いたまま沈黙を貫き、オデュッセウスの謝罪の言葉にも一切応じませんでした。
永遠の刑罰を受ける罪人たち
さらにオデュッセウスは、永遠に罰を受け続ける者たちの壮絶な姿を目撃します。
- ティテュオス:大地に横たわり、二羽の禿鷹にいつまでも肝臓をついばまれる
- タンタロス:目の前に水と果実がありながら、永遠に飲み食いすることができない
- シーシュポス:巨大な岩を山頂へ押し上げても、また転がり落ちることの繰り返し
その他の英雄たち
このほか、冥界の判官ミーノース、巨躯の狩人オリーオーン、そして半神ヘーラクレースの姿も描かれています。ヘーラクレース自身はすでに神としてオリュンポスへ昇っていたため、冥界に現れたのはその影にすぎませんでした。
まとめ
冥界での一連の出会いを通じて、オデュッセウスは帰還への道筋だけでなく、名誉、家族、そして死についての深い洞察を得ます。この章は古代ギリシャ人の死生観を映す鏡として、今日でも世界中の読者を魅了し続けています。