「マッカーサー元帥は朝鮮戦争中、中国への原爆投下を求めていた」という話を耳にしたことがある人は少なくありません。しかし、これは歴史の中で最も広く流布した誤解の一つです。実際には、ダグラス・マッカーサー元帥は原子爆弾の使用に反対しており、中国に対して原爆を使用することを提案したことも、支持したことも一度もありませんでした。
なぜこの誤解が生まれたのか
誤解の背景には、1950年から1951年にかけての朝鮮戦争の激化があります。中国人民志願軍が参戦し、国連軍が苦戦を強いられる中、アメリカ国内では核兵器の使用を含むあらゆる選択肢について議論が交わされていました。
さらに、マッカーサー当時の国連軍総司令官は、中国本土への攻撃拡大を主張してトルーマン大統領と対立し、1951年4月に解任されたという経緯があります。「彼は戦争をエスカレートさせようとした人物だ」というイメージが、「原爆使用も辞さなかったはずだ」という推測につながり、やがてあたかも事実であるかのように語られるようになったのです。
マッカーサー自身の発言が物語る真実
決定的なのは、マッカーサー本人の証言です。解任後の1951年5月、米上院の合同公聴会で彼は核兵器の使用について問われ、原爆の使用を支持しない明確な姿勢を示しました。彼は、朝鮮戦争は従来の戦争とは全く異なる性質のものであり、核兵器が有効な手段になるとは考えていないと述べています。
つまり、「中国への原爆投下を望んだ」というのは、マッカーサーの強硬なイメージから生まれた後付けの物語であり、歴史的事実としては裏付けがないのです。
歴史を正しく知ることの大切さ
この事例は、有名な人物の「イメージ」が事実よりも強く記憶に残ってしまうことの危うさを教えてくれます。冷戦初期の核をめぐる議論は現代の安全保障にも通じる重要なテーマですから、一人の指導者の発言と行動を正確に理解しておくことは決して無駄ではないでしょう。